| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-263  (Poster presentation)

ミジンコ遺骸・DNA情報から紐解く琵琶湖生態系の変化:栄養カスケードに着目して
Ecosystem changes in Lake Biwa during the past 100 years: new insights from ancient DNA and Daphnia remains

*槻木(加)玲美(松山大・法), 本庄三恵(京都大・生態研), 加三千宣(愛媛大・CMES), 早川和秀(琵琶湖・環境科学研セ), 工藤洋(京都大・生態研)
*Narumi TSUGEKI(Kuwae)(Law Faculty, Matsuyama Univ.), Mie Honjo(CER., Kyoto Univ.), Michinobu Kuwae(CMES, Ehime Univ.), Kazuhide Hayakawa(Lake Biwa Env. Res. Inst.), Hiroshi Kudoh(CER., Kyoto Univ.)

湖沼や閉鎖性沿岸域は、その特性から集水域での開発や水位操作等の人為的な環境変化の影響を受けやすい。世界有数の古代湖、琵琶湖においても近年固有種の6割以上が絶滅危惧種などに指定されるなど生態系変化が危惧されている。実際、湖底堆積物を用いた過去100年にわたる解析から、琵琶湖は高度経済成長期の1970年代にかけて都市化に伴う栄養塩負荷により、富栄養化が進行し、植物プランクトンと主要な動物プランクトン、ミジンコ(Daphnia galeata)も共に急増したことが明らかとなっている。さらに1998年には、これまで見られなかった大型ミジンコ(D. pulicaria)が突然出現し(Urabe et al. 2003)、その後もプランクトン相の変化が指摘されているが、2000年頃から現在までのプランクトン相の長期変化は、良く判っていなかった。そこで本研究は、堆積物に残された遺骸やDNA情報から過去100年にわたる動・植物プランクトンの長期変化を再現し、その変動要因を環境変化や生物間相互作用に着目して解析を行った。ミジンコ遺骸の観察結果から2000年頃、出現したD. pulicariaは、その後、定着し現在にかけ増加傾向を示していることが判明した。逆に、植物プランクトンは2000年頃より、減少傾向を示していた(早川ら2012)。またD. pulicariaが突然、出現する時期は、その捕食者であるホンモロコが大幅に減少する時期と一致していた。つまり、D. pulicariaが増えたのは餌が増えたことに起因するのではなく、捕食圧の低下に起因すると考えられた。一方、ホンモロコの急激な減少は、南郷洗堰の水位操作と渇水により引き起こされたことが報告されている(水野ら2013)。つまり、水位操作といった政策の実施と大渇水という気象要素が高次捕食者の減少を引き起こし、その餌生物であるミジンコ、さらに植物プランクトンへと影響が及ぶtrophic cascadeを生じさせた可能性が見えてきた。本発表ではこういった解析結果を報告し、政策が生態系に及ぼす波及効果を考察する。


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