| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-271  (Poster presentation)

時間×空間の餌の発生パターンが生み出す景観スケールでのボトムアップ効果 【B】
Bottom-up effect from spatial and temporal interaction effect of prey emergence at the landscape level 【B】

*筒井優(東大・農), 馬場友希(農研機構・環境変動セ), 田中幸一(農研機構・環境変動セ), 宮下直(東大・農)
*Masaru Tsutsui(Tokyo Univ. Agric), Yuki G Baba(NARO. Inst Agro-Env Sci), Koichi Tanaka(NARO. Inst Agro-Env Sci), Tadashi Miyashita(Tokyo Univ. Agric)

多くの捕食者は個体群を維持するために餌資源を安定して利用し続ける必要がある。その仕組みの一つとして、フェノロジーが異なる餌種が群集に含まれることによって、発生消長が相補的になることが考えられる。このパターンは、特定のパッチだけでも起こり得るが、空間の異質性が高い条件では、景観スケールで多様なフェノロジーを示す餌種が存在することによって生じる可能性がある。さらにこの時間×空間が生み出す餌の発生パターンの相補性は捕食者の時空間動態を決める重要な要因になると考えられる。そこで本研究は水田で発生する多様なハエ目とそれを主な餌とするアシナガグモ属に注目した。水田は農家によって管理の仕方が異なり、空間的にハエ目の種組成が異なっている可能性が高いため、景観スケールでフェノロジーが異なる餌種の組み合わせができやすいと考えられる。そこで以下の4つの仮説を検証した。①アシナガグモ属は、複数の時期でハエ目のバイオマスから影響を受ける。②アシナガグモ属に影響するハエ目は季節によって優占種が異なる。③それぞれの季節で優占するハエ目の数は異なる空間構造を示す。④ハエ目の発生パターンは時間的に相補的、すなわち非同調的であり、個体数変動の負の共分散の効果が強まることでハエ目全体の時間的な変動を安定化させる。

調査の結果は4つの仮説を支持する結果となった。特に仮説④において、ハエ目の発生パターンは、特定の水田のみでは有意に非同調的ではなかったが、異なる水田が組み合わさることで、有意に非同調的になり、個体数変動の強い負の共分散の効果によって安定化されることがわかった。したがって、時間×空間のハエ目の相補性が生み出す景観スケールのボトムアップ効果がアシナガグモ属の個体群を維持していることが示唆された。


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