| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-277  (Poster presentation)

遺伝的多様性とその代替指標に基づく保護区選択の比較
Comparison of conservation prioritization based on genetic diversity and its surrogates

*石濱史子(国立環境研究所)
*Fumiko ISHIHAMA(NIES)

種内の遺伝的多様性は、生物多様性の重要な要素の1つであり、環境変化に対する適応進化の原動力である。生物の長期的な存続性を担保するためには、遺伝的多様性を保全することが欠かせない。
保護区の設置は、多くの種を同時に保全するための最も有効な手段の1つである。保護区の候補地選定には、限られた面積でできるだけ多くの種をカバーできる場所のセットを選定する「保護区選択」の手法がよく用いられる。しかし、保護区選択の際に、種内の遺伝的多様性はほとんど考慮されていないのが現状である。これは主に、遺伝的変異の空間分布パターンである「遺伝構造」に関する実測データが不足していることによる。例えば、約6000種の日本の維管束植物のうち、全国スケールで遺伝構造が研究されている種は100種程度(約1.7%)に留まる。遺伝構造の実測には、遺伝解析の手間の他、広域でのサンプル収集のコストが多大なため、全ての種で遺伝構造を調べることは非常に困難である。
一方、生物の遺伝構造は、環境に対する適応や、地理的な距離による隔離、歴史的移動分散プロセスによって形成されるため、環境変数や地理的な位置を、遺伝的多様性の代替指標とできる可能性が指摘されている。
本研究では、国内の植物種を対象に、気候および地理的な変数が、保護区選択において遺伝的多様性の代替指標となるか検討を行う。まず、全国スケールで多地点での遺伝構造の調査が行われている種のデータを、文献もしくは著者からの提供によって収集した。このデータに基づいて、種内の遺伝変異幅をできるだけカバーするように保護区選択を行うとともに、種内の気候レンジ、地理的レンジそれぞれをカバーするような保護区選択も行う。それぞれの指標に基づいて選ばれた保護区内の遺伝的多様性の大きさを比較することにより、気候・地理変数が、十分に高い遺伝的多様性をカバーするような保護区選択の指標となりうるか評価した結果を報告する。


日本生態学会