| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-282  (Poster presentation)

木曽ヒノキ天然更新において地表環境が種子菌害率に与える影響
The effect of litter layer on the frequency of seed decay of Chamaecyparis obtusa in a natural forest

*市原優(森林総研関西), 杉田久志(雪森研究所)
*Yu ICHIHARA(FFPRI KANSAI), Hisashi Sugita(Snowy Forest Lab.)

長野県木曽地域のヒノキ天然林では天然更新を期待する施業が行われているが、林床がササに覆われ稚樹の定着サイトは成木の根張り上に偏る傾向がみられる。亜高山針葉樹林に見られる倒木更新では、リターにおいて種子や実生の菌類病害が多発するため地表における実生定着が阻害されることが報告されているが、ヒノキ天然林では菌類病害が関与しているのかは明らかになっていない。本研究ではヒノキの天然更新阻害因子としての地表環境の影響と菌類病害の関与を明らかにするために、地表面(リター有/無)および成木の根張り上(リター無)を対象として、種子段階における死亡要因と発生率、種子腐敗の病原菌を調査した。ササが繁茂するヒノキ天然林に、ササ無処理区(リター無処理)、ササ刈払区(リター無処理)、ササ掘取区(リター除去)が設定されている試験地において、各区で30㎝四方の地表面に落ちた種子を採取し、種皮を剝いで種子内部を観察した。林床のヒノキ種子の死亡要因は、菌害による腐敗が最も高く、次いで何らかの食害によるものだった。ヒノキ種子の腐敗率はササ無処理区、ササ刈払区、およびササ掘取区でそれぞれ65%、75%、および3%と、リター除去したササ掘取区で低かった。採種園のヒノキ種子を網袋に入れ、成木の根張り上(リター無)と近傍の地表リター上に12月に設置し、翌6月に回収して種子の腐敗率を調査した結果、腐敗率は根張り上で8%、地表リターで82%と根張り上で低かった。リターで腐敗した種子からは3種の土壌菌類が分離され、ヒノキ種子への接種試験により病原性が確認された。このことから、ヒノキの天然更新がリター中で阻害される一要因として、土壌病原菌による種子腐敗が寄与していると考えられた。


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