| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-300  (Poster presentation)

広域的なミズナラの凶作をもたらす気象イベントの探索
The climatic events inducing the poor crop of Q. crispula in the large-scale area

*水谷瑞希(信州大学)
*Mizuki MIZUTANI(Shinshu Univ.)

ミズナラは,中部地域においてクマ大量出没を左右する鍵植物である。このためミズナラの豊凶はクマ出没予測の観点から注目され,県などによって実施される豊凶モニタリングの対象樹種ともなっている。この調査によってミズナラの豊凶が明らかになるのは通常初秋であるが,より早期のクマ出没予測の実現に向けて,ミズナラの豊凶の事前予測技術の開発が求められている。樹木の結実には,個体ごとの資源収支とあわせて,外的な気象要因が影響することが予想されている。このうち広域的に作用する気象要因は,景観スケールでの樹木の結実に影響を及ぼし,山地におけるクマの餌資源量を左右することから,クマ出没予測を目的とした豊凶予測においてとくに注目される。そこで本研究では,ミズナラの広域的な凶作のトリガーとなる気象イベントを,固定地点における豊凶モニタリングと気象データとの対応から探索し,さらにその面的評価を試みた。ミズナラの豊凶は,福井県内の13地点112個体を対象に,2005年から継続して調査した。期間中,ミズナラの凶作は,2006年,2010年および2014年に発生していた。また大規模なクマ大量出没が発生した2004年も,ミズナラ凶作年であったと推察された。気象データはメッシュ農業気象データ(農研機構)を用い,以前の解析で結実への影響が示唆された前年夏,当年春,当年夏の3期間を対象に,気温,降水量,日照時間の3要素を対象として検討を行った。夏の日照時間は,2003年7月に特異的に少なく,翌2004年の凶作のトリガーとなった可能性が考えられた。また春期の気温は,旬別気温の比較ではミズナラ凶作年との対応は明らかではなかったが,遅霜の可能性について,開芽予想日以降の低温日とそれに先だつ高温期の存在に注目すると,2010年の凶作年はこの条件に当てはまっていた。中部地域を対象に,これら気象イベントの発生範囲を推定したところ,クマ出没傾向との間にある程度の対応が認められた。


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