| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-305  (Poster presentation)

ナニワズの夏落葉は鳥に赤熟果実をディスプレイするためか?
Is leaf falling in summer of Daphne jezoensis to display red fruit on bird?

*橋本徹(森林総研北海道)
*Toru HASHIMOTO(FFPRI)

 葉フェノロジーの解明は、植物の適応戦略を理解する上で重要である。林床低木ナニワズは夏落葉というユニークな特性を持つ。上木の葉に遮られ暗い夏期に落葉することで葉維持コストを節約する戦略と考えられるが、まだ暗い9月に越冬葉を開葉する。一方、落葉期に果実が赤熟し目立つ。そこで、ナニワズの夏落葉は赤熟果実を散布者にディスプレイするため、という仮説を立てた。その仮説検証の予備調査として、(1)落葉期間と着果期間、(2)果実食者の特定と来訪頻度、を調べた。
 調査(1)は森林総合研究所北海道支所の羊ヶ丘実験林で2012年6月から行っているモニタリングデータを用いた。落葉広葉樹林内の林床に生えている12幹と開放環境の樹木園に植栽されている2幹(の一部)に目印を付け、1週間から10日の間隔で定期的に葉数を記録した。着果期には着果数とも記録した。調査(2)として、2018年に着果個体近傍に自動撮影カメラを7台設置し、果実食者を記録した。
その結果、調査(1)では、落葉期間と着果期間が重なっていた。調査(2)では、ナニワズ近傍に訪れた鳥類およびほ乳類は撮影できた。しかし、果実を採食、または採食したと推定される写真は撮影できなかった。
 落葉期間と着果期間の重なっていることから、9月の越冬葉開葉はディスプレイすべき果実がなくなったから開葉すると解釈できる。一方、今回の調査からは果実散布者を確認できなかった。果実被食によるナニワズ種子散布は低頻度であると考えられる。林床低木の果実は散布者から視認されにくい。特にナニワズでは、葉をクラスター状に束生させその間に果実をつけるため、葉のある状態では上から果実は見えない。散布者の来訪が希だからこそ、夏落葉は赤熟果実を少しでも目立たせる効果があると考えられる。


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