| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-371  (Poster presentation)

クチナガオオアブラムシ属における寄主転換の発見~アカマツ-クヌギ間での季節的移住
Seasonal migration between pine and oak in Stomaphis

*山本哲也(信州大学), 服部充(長崎大学), 市野隆雄(信州大学)
*Tetsuya YAMAMOTO(Shinshu Univ.), Mitsuru Hattori(Nagasaki Univ.), Takao Itino(Shinshu Univ.)

 アブラムシ類における寄主移住は、季節的に異なる寄主植物種への適応であり、アブラムシの寄主植物に対する多様化に貢献したとされている。その中でもオオアブラムシ亜科のほとんどのアブラムシ種は木本植物に寄生し、季節的な寄主移住を行わないことが知られていた。しかし、オオアブラムシ亜科に属するクヌギクチナガオオアブラムシは、春にコナラ上で出現した少数の有翅虫がクヌギへ移住し、秋になると再び有翅虫が出現しクヌギからコナラへ戻る、周期的な寄主移住を行う、稀な例として報告されていた。
 本研究では、このクヌギクチナガオオアブラムシにおける寄主移住を詳細に調べたところ、先行研究の報告とは異なり、コナラのみを利用する種とアカマツ-クヌギを利用する種の2種に分かれることが明らかになったので報告する。
 まず、移住を行う有翅虫の出現時期を調査したところ、5月と10月にクヌギ上で多数の有翅虫が観察された。一方で、同時期にアカマツ上でも多数の有翅虫が観察された。しかし、コナラ上では有翅虫が発見されなかった。次に、ミトコンドリアDNAを用いて各寄主植物種を利用するアブラムシの系統解析を行ったところ、アカマツとクヌギを利用する個体は単一のクレードに含まれたのに対し、コナラを利用する個体は異なるクレードに分けられた。さらに、主成分分析により各寄主植物種を利用するアブラムシの各モルフの形態を比較したところ、アカマツおよびクヌギ上で観察された個体間では形態上の区別ができず、一方、これらの個体とコナラ上で観察された個体との間では区別ができた。以上の結果は、クヌギクチナガオオアブラムシとされている種が、一次寄主としてアカマツを二次寄主としてクヌギを利用する寄主移住を行う種と、一年を通してコナラを利用する単食性の種に分けることができることを示している。


日本生態学会