| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S04-4  (Presentation in Symposium)

南アルプス-ユネスコエコパーク(BR)の現状と将来
The future and present of Minami-Alps UNESCO Eco-park(BR)

*増沢武弘(静岡大学), 若松伸彦(横浜国立大学)
*Takehiro Masuzawa(Shizuoka University), Nobuhiko Wakamatsu(Yokohama National University)

 本州中部に位置する南アルプス地域は2014年にユネスコエコパーク(BR)として認定された。南アルプスは標高3000mの峰が南北に連なる山岳地域である。また、周辺を取り巻く大井川、天竜川、富士川水系には山岳地域に関連した固有の文化圏が形成されている。これらの地域は3県10市町村にわたり、「高い山、深い谷が育む生物と文化の多様性」の理念のもとに、南アルプスユネスコエコパークとしてまとめられている。
 現在、関係するこれらの10市町村は自然環境の永続的な保全と持続可能な利用に対し、共同で取り組んでいる。近年、この地域では自然環境に対する大きな問題が生じている。南アルプスの地下を通過する中央新幹線建設事業計画である。この計画ではトンネル工事が行われるが、山梨県側、長野県側、に加え静岡県大井川上流に大量の掘削残土が排出される。そのうち大井川上流部には最も多くの残土が排出され、河岸林が成立している河岸段丘や扇状地が残土置き場となる。また、工事による大井川の流水量の減少やそれに伴う水生生物の生存危機なども大きな問題となっている。
 ここでは世界遺産にはないユネスコエコパークの「移行地域]として、以下の諸問題についてどのように対応すべきかを述べ、現実に対応している具体的な内容についても説明する。
 1.大規模工事により、大井川上流の貴重な自然環境が、どの程度影響を受けるのか。2.その影響をどれくらい減少させられるか、または避けられるか。3.河岸林の保護・保存ができるか。4.工事終了後に、残土置き場や宿舎跡地を自然植生により復元できるか。5.工事の計画変更や改変などに対してのこれまでの要望内容を基に、大井川上流域の将来像を関係者で議論することができるか。 
 以上のように、ユネスコエコパークの移行地域における諸問題に対応しつつ、移行地域の理念である「人と自然との相互作用および共生」を目標に活動している現状を紹介する。


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