| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S08-7  (Presentation in Symposium)

人獣共通感染症の生態学的アプローチ〜生物多様性の観点からリスク管理を考える
Ecological approach to zoonosis - its risk control based on bio-diversity conservation

*五箇公一(国立環境研)
*Kouichi Goka(NIES)

近年、エボラ出血熱や鳥インフルエンザなど新興感染症の増加が世界的な問題とされるが、これら新興感染症の半数は野生動物由来の人獣共通感染症である。自然環境中の野生生物の中で静かに生息していた病原体微生物を人間社会に導き入れたのは人間自身である。人間が彼らの生息域である自然林を破壊し、あるいは野生動物を移送することにより、病原体は新たな宿主として人間に感染を始めている。
こうした感染症の分布拡大に伴う被害は野生生物の絶滅リスク要因としても問題となっている。例えばタンザニアのセレゲンティ国立公園では、1991年に野生イヌが絶滅した。その原因とされるのが、人間が持ち込んだ飼育犬が保有するジステンパー・ウィルスや狂犬病ウィルスである。アメリカ合衆国中部大西洋沿岸地域において狂犬病が野生生物の間で流行したのは、南東部の病巣エリアから、狂犬病ウィルスに感染したアライグマを移動したためとされる。あるいはまた、アジアから両生類が輸出されたことでパンデミックしたカエルツボカビのようにグローバル化に伴い野生動物から野生動物への感染も発生している。
従来、感染症対策といえば厚生労働省もしくは農林水産省の管轄であり、医学・獣医学研究分野がその調査・研究の主流を占めてきたが、生物多様性の劣化が新たな感染症の拡散・流行を招き始めているいま、生態学的視点に立った調査・研究の推進は必須であり、「感染症の生態学」として、医学・獣医学・生態学という様々な生物学分野が連携してこの問題に取り組む必要がある。同時に人間社会と生物多様性のインターフェースとして感染症問題の普及啓発を進めることも重要な課題となる。


日本生態学会