| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S10-4  (Presentation in Symposium)

生物多様性観測と社会の接点 ~サラワク先住民の生態系サービスを例として
Linking biodiversity observation to social aspect ~lessons from ecosystem services for local indigenous people in Sarawak

*竹内やよい(国立環境研究所)
*Yayoi Takeuchi(NIES)

生物多様性は自然資本の主要な構成要素であり、生態系サービスの供給範囲を決定する要因であることが広く理解されつつあるが、生物多様性の減少や劣化はいまだに続いている。地球上の中でも特に熱帯林は、地球規模での生態系機能や生態系サービスを担う重要な場であるだけでなく、地域スケールにおいても地域の人々に食糧、水源、文化などの多様なサービスを与えている。熱帯地域は開発が先行し、原生林が減少する中、地域の生物多様性はどのように保全できるのだろうか?また地域住民への生態系サービスは担保されるのだろうか?
この問いに答えるため、マレーシア・サラワク州の農村部で生物多様性と生態系サービスについての研究を進めてきた。この地域では、先住民社会が焼畑耕作地の間にプラウと呼ばれる断片化した小規模な森林を残し、伝統的に林産物を採集するのに利用してきた。このプラウを含む景観に注目し、生物多様性保全と生態系サービス利用の両立が可能かについて検討を行った。プラウの樹木及び動物の種多様性を調査した結果、断片した森林であるにもかかわらず、原生林と同等のレベルの種多様性があることが分かった。生態系サービスについては、開発に伴いその利用が変化していた。例えば、カゴなどの工芸品の材料となるヤシ科のつる植物・ラタンは、伝統的にプラウなどで採集され、多様な種類が利用されてきたが、市場での代替品により利用する種類が減少している。一方で、プラウ内の水資源は、汚染のない水源確保のため需要が増大していた。こういった生態系サービスの需要はその種類によって増減があり、それは自然環境・開発・社会経済状況などを含めた生態・社会システムの動的な相互作用によって決定されることが考えらえた。
本講演では上記の研究事例を紹介しながら、今後の生物多様性保全と生態系サービスの持続的利用のための生物多様性観測・研究とその役割について議論したい。


日本生態学会