| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W16-1  (Workshop)

はじめに:生態系の持続可能性とNovel ecosystem
Introduction: ecosystem sustainability and novel ecosystems

*可知直毅(首都大学東京)
*Naoki Kachi(Tokyo Metropolitan Univ.)

 攪乱後に成立した生態系は、生物の構成や機能の点で攪乱前の生態系とは異なることが多い。これは、生態系が攪乱後に元の状態に戻る力(レジリエンス)に対して閾値を超えた攪乱を受け、別の状態に移行したと考えられる。近年、攪乱を受けた生態系の管理において、攪乱前の状態に戻るかどうかよりも、生態系の機能に着目して、攪乱後の生態系が持続可能であるかどうかを重視する考え方が提唱されている。生物の種構成や機能の点で攪乱前とは異なるが、持続可能な生態系は「Novel ecosystem」と呼ばれる(Hobbs et al. 2011)。Novel ecosystem は、大きな攪乱を受けた生態系の管理計画を策定する上でも有効な概念である。大きな攪乱を受けて元の生態系の構成種が回復不可能な場合、代替種(場合によっては外来種)の導入により持続可能な生態系機能を回復できる可能性がある。
 世界自然遺産地である小笠原諸島では、外来生物の侵入によって破壊された固有生態系を保全するため、外来生物の駆除と並行して自然再生事業が大規模に実施されている。しかし、固有種等の減少・絶滅や土壌環境の劣化がおこると、攪乱前の種構成をもつ生態系の復元は難しい。この場合、生態系機能の持続可能性に基づいた自然再生もあり得る。たとえば、自然再生の目標を攪乱前の生態系の機能を持つ生態系とすれば、広域分布種や外来種の導入も選択肢となる。
 外来生物による攪乱は、土壌環境の改変を介して生態系を大きく変化させる主要因のひとつである。我々は、外来哺乳動物であるヤギの攪乱によって植生の退行が起きた小笠原諸島の媒島において、ヤギ駆除後の生態系の変化について研究してきた。また、人為の影響を受けていない南硫黄島の生態系についても研究を進めている。この自由集会では、フィールド研究と数理モデルによる生態系シミュレーションという2つのアプローチによる研究成果を紹介し、自然再生事業に対して生態系機能の持続性を重視した生態系の管理手法について議論する。


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