| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W16-2  (Workshop)

海洋島の原生生態系における海鳥による栄養塩循環と人為的撹乱による劣化
Seabird mediated nutrient cycle in a primary ecosystem on oceanic islands and its deterioration caused by anthropogenic disturbance

*川上和人(森林総合研究所), 佐藤臨(首都大学東京), 中下留美子(森林総合研究所)
*Kazuto Kawakami(FFPRI), Nozomu Sato(Tokyo Metropolitan Univ), Rumiko Nakashita(FFPRI)

海洋島は海洋プレート上に位置する島嶼であり、一般に地上性哺乳類など一部分類群が欠如した不調和な生物相を持つ。その一方で、地上性捕食者が欠如する特異な環境ゆえ、地上または地中繁殖性の海鳥が高密度で繁殖することも特徴となっている。海鳥は生態系内で種子散布や環境改変、栄養塩供給などの機能を果たしている。しかし、人間による入植は意図的・非意図的な捕食者の侵入を促し、多くの海洋島では海鳥繁殖地が縮小・消滅し、その機能が既に失われている。小笠原諸島は世界自然遺産に登録されている海洋島だが、他の島嶼同様に外来種による影響を強く受けている。その中で、南硫黄島は過去に人為利用の記録がなく原生環境が保たれている希有な島である。そこで、原生環境における海鳥の栄養塩供給およびこれに対する人為的影響を明らかにするため、南硫黄島および有人島の植物、昆虫、鳥類、爬虫類、甲殻類の窒素および炭素の安定同位体分析を行った。その結果、有人島では各分類群において窒素の同位体比が2〜5‰程度低下していることが明らかになった。これは、海鳥の繁殖集団が局所絶滅することにより、海からの栄養塩供給が絶たれたためと考えられる。また、南硫黄島では標高が低いほど窒素の同位体比が高い傾向があった。南硫黄島では標高916mの山頂部も含め全域で海鳥が繁殖するが、低標高地では大型の海鳥が、高標高地では小型の海鳥が繁殖している。大型種の栄養段階は小型種より高いと考えられ、この分布が標高による同位体比の違いをもたらしている可能性がある。南硫黄島の海岸部では岩石地より植生のあるエリアで、山域では崩壊地や草地より森林で海鳥の営巣密度が高かったことから、海鳥は森林の物質循環において重要な機能を果たすものと考えられる。この結果は、小笠原諸島における自然再生の目標像を示すものと言える。


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