| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W21-3  (Workshop)

小学校と連携した地域主導の「ふるさと教育」における研究者の寄り添い
Facilitation of researchers for agricultural community-led "local education" associated elementary school

*嶺田拓也(農研機構・農村工学研)
*Takuya Mineta(IRE/NARO)

これまで里山・農地の生物多様性は,農村に居住し,生活の場としている農家による日々の管理によって意図せざるとも担われてきたといえる。しかし,昨今の過疎・高齢化により,農村自体の担い手の減少が著しい。農業が基幹産業の山形県河北町元泉地区では,農林水産省が農業や農村の有する多面的機能の維持・発揮を図る地域の共同活動を支援する多面的機能支払交付金を活用したメダカの保全活動などが行われてきた。メダカの生活史は水田農業と結びついており,内外の様々な研究者と連携した保全活動を通じ,次世代を担う子どもたちに農業や水田生物多様性に対する意識の醸成に貢献してきた。4年前からは学区となっている小学校のクラブ活動枠を主導して,メダカ保全池や水田の生物観察などからなる年間7~11回のカリキュラムを組み,地区を超えた農村地域の担い手の育成に取り組んでいる。農村や農業活動に依存する生物の数十年先の行く末も見据えたこの「ふるさと教育」に対して,報告者自身も含めて多くの外部の研究者が支援や協力を行っている。その支援の特徴としては,「押しつけ型」ではなく,「寄り添い型」にある。つまり,研究者が農村の生物多様性保全を主導するのではなく,あくまでも地域が主体的に意思決定を行いやすいように,求められたときに必要十分な情報をタイミングよく提供しうる支援型のかかわりにとどめるようにしている。研究者の役割には,民俗学でいう「まれびと」のような存在として,新しい知識や価値観をムラにもたらす側面があるだろう。しかし,客人としてのまれびとは未知なものとの橋渡し役としてもてはやされるが,地域の権威にとってかわるものでなく,ムラの統治体系を無視して新しい価値観を押し付けると,たちまち災い人として扱われてしまうだろう。ムラにはムラの時間が流れており,その機微を読み取りながら誘導していく技術がムラに入る研究者には求められている。


日本生態学会