| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W29-1  (Workshop)

日本と欧州の植生体系の整理と課題
Organisation and issues of vegetation classification system of Japan and Europe

*中村幸人(東京農業大学)
*Yukito Nakamura(Tokyo Univ. of Agriculture)

吉井義次は日本生態学会誌の前身でもある「生態学会報」の第1巻第1号に「植物群落学発達に関する考察」を掲載した.鈴木時夫は「東亜の森林植生」を刊行し,台湾の森林植生を中心に植生体系を構築した.宮脇,大場,多くの研究者は森林だけでなく,低木林や草原も対象とした研究を欧州の植生体系に照らし合わせて行ってきた.日本の植物社会学の体系化は日本植生便覧(1978)にあるように一応の完成は成し得た.しかしまだ,道半ばで多くの課題も出ている.命名規約による検証とその再整理,大陸との比較による体系の見直しなどの必要性,その過程ではまだ体系化されない植生の存在や植生単位の解釈の仕方で迷うところも多い.欧州の植物社会学体系を模範としながらもその整理のためには日本の植生に独自の解釈を持ち込む必要もある.日本列島は亜熱帯から高山ツンドラまで,海洋性気候下で生物多様性のホットスポットである.氷河に覆われたことがなく,氷期の大陸との交流,火山や多雪環境など,多くのイヴェントが多様な植生の分布を可能にしている.このような背景は植生研究には宝の山である.様々な範例の植物群落を正確に理解することが植物社会学を深めることになる.組成論の基本は類型化である.複雑な自然を理解するための類型によって体系化が図られる.体系化には標徴種という核がどうしても必要である.区分種だけの組み合わせのグループ化によって群集を認める手法もあるが,立地との関係は明らかにできても,地理学的な関係が見えにくい.体系は群集,群団,オーダー(群目),クラス(群綱)の4階であるが,統一した基準であり,自然界がそうなっている訳ではない.クラス群,群集群,地域群集,ラッセはヒエラルキーに関係しない分類群もあるが,亜群団のように4階建を5階建にしてしまうのは問題である.このような標徴種を持たない分類群を正確に使用することで地理的な考察を深めていくこともできる.


日本生態学会