| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


第12回 日本生態学会大島賞/The 12th Oshima Award

水辺の樹木の生活史ー河川攪乱との相互作用ー
Life history of riparian trees-interaction with riparian disturbances-

崎尾 均(新潟大学 農学部)
Hitoshi Sakio(Faculty of Agriculture, Niigata University)

 河川は上流域から下流域に向かって,攪乱体制が変化するとともに環境も大きく変化する.私の水辺林研究は35年前に奥秩父の最上流域の渓畔林でシオジの巨木に出会ったことがきっかけとなった.最初は,シオジの種子生産の調査から始まり,種子発芽,実生の定着,そして更新機構の解明へと進んでいった.この研究過程で,シオジが渓流際の渓畔林の優占種であり,サワグルミやカツラなどとともに渓流攪乱と密接な関係を持って更新し,共存していることが明らかになった.これらの樹木の共存には,規模や頻度が異なる山腹崩壊や土石流などの地形変動によって形成された様々な光・基質・水環境を持つ立地環境の出現が重要であった.また,これらの大規模攪乱の初期段階には,オノエヤナギやケヤマハンノキなど先駆樹種が林分を形成していた可能性も佐渡島の渓畔林の研究から示唆された.

 私の研究対象はハリエンジュの流域への分布拡大を扱う中で中下流域へと広がっていった.河川上流域の緑化樹として植栽された外来樹種ハリエンジュの種子は,洪水の際に土砂とともに散布され中下流域で発芽,定着して分布を拡大させ,根萌芽を発生させることで林分を拡大させた.中下流域の自然の河畔林では,洪水による流路変動が主要な攪乱となっている.比較的短寿命のヤナギ類は洪水後の砂礫地で発芽,実生定着を行うが,林分が破壊されるような大規模な洪水後には,土砂に埋設された枝から萌芽を発生させ,成長して林分を再生させる.以上のように,水辺林を構成する樹木は,生活史をとおして,河川攪乱と密接な相互作用を持って更新・共存していることが明らかとなってきた.

 また,基礎研究とともに水辺林の再生修復やハリエンジュの除去方法にも取り組んできた.苗木植栽や種子の自然散布に頼る方法で20年以上その効果を検証してきたが,できるだけ自然の遷移にまかせることが重要である.いずれにしても科学的知見に基づいて行うことが水辺環境の保全にとって大切である.

 以上のような研究を行なってきた中で,ニホンジカの水辺植生への影響や,温暖化がシオジの開花結実に与える影響を認識するなど,長期研究の重要性をひしひしと感じている.私の研究は,河の流れのように自由に蛇行しながら続いてきたが,今後も,フィールド科学者として水辺の樹木の生活史と向き合う中で,長期研究を継続して行きたい.


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