| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-01  (Oral presentation)

一時的社会寄生種であるトゲアリが行う化学偽装の検証
Elucidation of the chemical disguise in a temporarily social parasitic ant: Polyrhachis lamellidens (Hymenoptera: Formicidae)

*岩井碩慶(慶大・先端生命研, 慶應義塾大学), 河野暢明(慶大・先端生命研, 慶應義塾大学), 堀川大樹(慶大・先端生命研, 慶應義塾大学), 冨田勝(慶大・先端生命研, 慶應義塾大学), 荒川和晴(慶大・先端生命研, 慶應義塾大学)
*Hironori IWAI(IAB, Keio Univ.), Nobuaki KONO(IAB, Keio Univ.), Daiki D HORIKAWA(IAB, Keio Univ.), Masaru TOMITA(IAB, Keio Univ.), Kazuharu ARAKAWA(IAB, Keio Univ.)

トゲアリ(Polyrhachis lamellidens)は他種アリの巣を乗っ取ることでコロニー創設を行う社会寄生種である.本種の新女王は宿主の巣内へ侵入する際に,宿主の働きアリに対して馬乗りになる行動をとることが知られている.過去に得られた飼育観察の記録から,この馬乗り行動にはアリ類が巣仲間識別を行う際に利用する体表炭化水素の組成を偽装することで宿主の攻撃を回避する役割があると推測されている.そこで本研究ではGC/MSによる体表炭化水素の組成分析,行動実験,そして遺伝子発現量解析を行うことで,本仮説の検証および識別機構への影響や獲得経路の探索を行った.体表炭化水素の組成分析および行動実験は,トゲアリの馬乗り行動に宿主体表炭化水素を化学偽装して宿主の巣仲間識別機構を欺く効果があることを示した.また標識物質を用いた塗布実験では,トゲアリが標識物質を馬乗り行動によって実際に獲得している様子を明らかにした.さらにその後の隔離観察から,トゲアリは馬乗り行動によって宿主の体表炭化水素を奪取し,その組成と量は宿主が不在の状況でも独力で維持できることが示唆された.そして一連の行動における遺伝子発現量解析で,一部の体表炭化水素の生合成に関わる遺伝子の発現量が馬乗り行動を行ったトゲアリにおいて,有意に増加する傾向を捉えた.これらのことから,トゲアリは宿主が持つ体表炭化水素の奪取のみならず,炭化水素の生合成も馬乗り行動を通して行うことで,化学偽装を遂行している可能性が推測された.


日本生態学会