| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-08  (Oral presentation)

イルカの声から明らかにする環境との関係
relations between dolphins and their environment

*浅井和成(東北大学), 赤松友成(中央水産研究所), Dade AYHAN(Istanbul Univ., TMRF), Ayaka Amaha OTZTURK(Istanbul Univ., TMRF), Tonay M ARDA(Istanbul Univ., TMRF), 長田穣(東北大学), 近藤倫生(東北大学)
*Kazunari ASAI(Tohoku Univ.), tomonari AKAMATSU(NRIFS), Dade AYHAN(Istanbul Univ., TMRF), Ayaka Amaha OTZTURK(Istanbul Univ., TMRF), Tonay M ARDA(Istanbul Univ., TMRF), Minoru OSADA(Tohoku Univ.), Michio KONDOH(Tohoku Univ.)

生態系の状態把握は、基礎科学の発展のみならず、生態系の保全・利用を考える上で重要な課題である。特に水域生態系の状態把握は、陸上環境に比べ手段も限られ、さらなる観測手法の発展が望まれる。水域生態系で将来の利用が期待される観測手法に音響観測がある。例えば、海洋で生息する生物には、コミュニケーションの手段として、または何らかの行動の結果として音を発するものがある。イルカはそのような生物の一つで、クリック音と呼ばれる一連のパルスを発してエコーロケーションに用いている。このような音響は、いうまでもなくそれを発する生物個体の行動を反映しているため、音響データを利用することで生物の行動に関する情報を得ることができる。実際これまでにも、生物由来の音響データを生態学的データとして活用する試みは幾つも存在する。本研究では、生物由来の音響データを時系列データとして捉えることで、生物と環境との間に生じる相互作用や因果関係を評価することを試みた。トルコ・イスタンブール海峡(ボスポラス海峡)において、2009年7月から2010年12月の438日間にわたってバンドウイルカ、マイルカ、ネズミイルカの発するクリック音が連続的に観測されている。このイルカ音響観測データと周辺地域で採取された環境変数(気温、漁獲量)をもとに、非線形時系列解析によるノンパラメトリック因果検定を行った。その結果、オキスズキの幼体の漁獲量データからイルカの鳴き方への因果が検出された。この結果はイルカの行動が、オキスズキの生物量もしくは漁獲量ないし人間の活動から影響を受けていることを示唆しており、今後イルカの行動を理解する上での一つの指針が得られた。同様の手法を利用することで、今後、他の多くの音響データから生態系や生物の振る舞いに関する情報が取り出せることが期待できる。


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