| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-07  (Oral presentation)

生物多様性地域戦略は山間部の地域おこしと生態系保全の2兎をおえるのか
Does local biodiversity strategy serve for both economic growth and conservation in mountainous region?

*佐久間大輔(大阪市立自然史博物館), 天満和久(大阪自然史センター), 道盛正樹(大阪自然史センター)
*Daisuke SAKUMA(Osaka Mus. Nat. Hist.), Kazuhisa TENMA(Osaka Nat. Hist. Cent.), Masaki MICHIMORI(Osaka Nat. Hist. Cent.)

大阪府豊能郡能勢町域は、近世以降三白(米、寒天、高野豆腐)三黒(銀寄栗、池田炭、黒牛)を特産とする。これらの特産品は薪炭林(炭及び寒天や高野豆腐のための燃料としての薪)、草原(黒牛、寒天や高野豆腐の干場)、そして水田などいわゆる里山ランドスケープに支えられた生態系サービスに依存してきた。このうち、菊炭生産に用いられてきた「台場クヌギ」および「銀寄栗」は斜面に栽培樹種を維持し、定期的な伐採や枝打ちをしながら利用する一方、地表は半日陰の草地(かつては飼料・肥料として利用)として維持される環境である。こうした環境は共有草地が失われ、さらに水田周囲の草地も改変された今日、生物的にも文化的にも貴重な景観である。現在、能勢町では能勢の里山活力創造戦略(能勢町生物多様性地域連携保全活動計画)を策定し、その価値共有と活性化を模索している。ここでは、銀寄栗の栽培地「くり山」を中心に報告する。
能勢町には町面積98.75㎢、うちクリ林の面積205.46haにのぼる。他の北摂地域のクリ山地は平坦面(水田跡など)で、施肥・農薬使用も含め、強度の低林剪定による集約的生産を行っているのに対し、能勢町では自然斜面での比較的粗放な生産となっている。明るい草地として維持された林床には多様なスミレ類、ササユリ、キジムシロ、ミヤコグサなどが維持され、これらの草本を食草として、またクリを吸蜜源としてウラナミアカシジミ、キマダラルリツバメ、ウラギンヒョウモンなど絶滅危惧種も維持されている。クリはニホンミツバチや蝶類、甲虫類を含めた多様な昆虫によるオープンポリネーションにより生産される。生態系サービスと地域の盆前の草刈りなど社会的維持管理に依存した生産体系となっている。
銀寄栗は高級グリ・和菓子の原材料として出荷される他、ジャムなど新たな加工品も生み出し、雇用を生んでいる。生態系サービスを地域に可視化し、経済との共存を図って維持することを目指している。


日本生態学会