| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-06  (Oral presentation)

Aquatic vegetation and related abiotic environment in brackish Lake Kitagata, Japan: implications for restoration

*Jun ISHII(Fukui Pref.)

沿岸域にある湖沼は、しばしば流域からの栄養塩が蓄積して富栄養化しやすい。また海水が流入しやすく上流域からの淡水の流入とのバランスにより、塩分濃度が変動しやすい。本研究では、そのような環境条件のもとでどのような水草相の保全・再生目標が立案可能かを検討した。研究対象とした福井県の北潟湖は、2018年に自然再生推進法に基づく法定協議会である北潟湖自然再生協議会が設立し、自然再生の課題の1つに水草が生育する水辺の保全・再生が挙げられている。北潟湖の水草相の現状を把握するために、2017年8月に湖内73地点で浮葉・沈水植物の分布調査を行った結果、水草は全く確認されなかった。また2011年に確認されていたヒシ群落も、同じ場所で確認されなかった。8~9月に水草の生育に影響する環境要因として、水深、透明度、底質、塩分濃度について調査した結果、水深は0.4~3.1 mであり、一般的に水草の生育が観察される範囲であった。透明度は0.3~2.5 mであり、湖岸と沖合のいずれの場所でも水深に対して値が低い場所では制限要因となる可能性が考えられた。湖岸の底質は、砂質で黒色~茶色の土壌の場所が多かったのに対して、沖合では泥質で黒色または灰色の土壌が多く、沖合の湖底付近で富栄養かつ貧酸素条件となっている可能性が示唆された。塩分濃度は、湖岸でも底層は4.5~8.4 PSUと高く、沖合では4.5~20.1 PSUでさらに高い値を示した。また文献調査の結果では、2011年の塩分濃度は塩化物イオン濃度で0 mg/Lに近い値を示しており、現在のヒシ群落の消失は塩分濃度の上昇による可能性が示唆された。北潟湖は下流部に設置された水門で、ある程度水管理を行うことができる。それにより、北潟湖を淡水環境で管理する場合はヒシ群落が再生し、汽水環境で管理する場合は水草相は消失したままとなる可能性が考えられる。また透明度と底質の条件を考えると、水草の保全・再生は湖岸付近でより成功する可能性が高いと考えられる。


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