| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-13  (Oral presentation)

耕作放棄が猛禽サシバへ与える影響:餌種構成が違う分布中心と北限での比較
Comparing impacts of farmland abandonments on a top predator, gray-faced buzzards, at their distribution center and northern boundary

*藤田剛(東京大学), 東淳樹(岩手大学), 宮下直(東京大学)
*Go FUJITA(University of Tokyo), Atsuki AZUMA(Iwate University), Tadashi MIYASHITA(University of Tokyo)

 生息地選択に地理的差異が生じる生態学的メカニズムを理解することは、広域にわたって分布する保全対象種などの生息地保全を進める上で、重要な役割を担う。演者らは、里山景観の象徴種とされる高次捕食者サシバに注目し、その繁殖分布と景観構造の関係に地域差が生じるメカニズムの解明に取り組んでいる。これまでの研究から、本種の生息地選択が分布中心である関東や東海と、東北や九州のあいだでちがっていることが明らかになっている。
 耕作放棄は、日本全域にわたって里山景観の生物多様性を脅かす課題のひとつである。耕作放棄地の増加は、農業人口の高齢化や減少が顕著な日本で急速に進んでいるが、水田などの農地を主な生息地とする生物が減少する一方で、放棄地に成立する湿地や草地などを生息地とする生物は増加する可能性もあるため、多様な餌生物を捕食する猛禽サシバへの影響は、単純には予想できない。
 本研究では、サシバの分布中心である栃木県東部と北限に位置する岩手県中部の里山を対象に、繁殖分布と耕作放棄パターンとの関係を、主要な餌生物であるカエル類とネズミ類の分布と合わせて調べた。カエルは、水田やその周辺にある水路などが幼生期の生息地であるため、耕作放棄が進むと減少する可能性が高い。一方ネズミは、草本や低木の根や茎、新葉などを食物とすると考えられ、耕作放棄によって増加する可能性がある。加えて、カエルは南方のサシバ分布中心の地域でより高密度で生息しているが、ハタネズミは逆に、北限の地域で高密度であることが示されている。したがって、分布中心では耕作放棄がカエル類の減少を通してサシバに負の影響を与える可能性が高いが、分布北限では耕作放棄がネズミ類の増加を通して、正の影響を与えることが予想できる。
 発表では、その結果を報告する。


日本生態学会