| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-06  (Oral presentation)

保守的/派生的な地形ニッチ - 丹沢山地における樹種配列の系統シグナル分析より
Conservative and derivative trends in the topographical niche of trees together shape forests in the geo-complex area of the East Asia

*酒井暁子(横浜国大・環境情報), 北川涼(森林総研関西支所), 森章(横浜国大・環境情報), 三村真紀子(岡山大・自然科学)
*Akiko SAKAI(Yokohama Nat. Univ.), Ryo KITAGAWA(Kansai Res. Center FFPRI), Akira S MORI(Yokohama Nat. Univ.), Makiko MIMURA(Okayama Univ.)

地表の起伏は環境に多様性をもたらすことで生物多様性に貢献している。しかし各種が選択している地形的ニッチの歴史的背景を論じた研究は少ない。そこで丹沢山地の306ha集水域において出現頻度の高い樹種28種を対象に、1)PCAによって地形軸上の分布パターンを把握し、2)そのパターンの系統的保守性を検討した。
 
1)地形的ニッチ第1軸は、尾根/厚い土/緩い傾斜/高標高 — 谷/薄い土/急な傾斜/低標高の傾度である(寄与率約45%)。先行研究も踏まえると、これは主に地表の安定性の違いに対応したニッチ配列であると解釈できる。第2軸は、尾根/薄い土/急な傾斜/北向き斜面 — 谷/厚い土/緩い傾斜/南向き斜面の傾度である(同約30%)。これは植物にとって一般的に成長に係る資源量の傾度と解釈できる。
 
2)系統的距離とニッチの距離との相関関係、およびPagel’s λによって、地形的ニッチ第2軸上の位置、および個別の地形要素では土壌厚と斜面方位において、系統シグナルが検出された。針葉樹およびモクレン科と他の被子植物との関係など比較的上位分類群でのニッチ分化があり、またブナ目の中でブナ科とカバノキ科がこの軸上でニッチを分けている。一方で、地形的ニッチ第1軸には系統的関係性は見られなかった。
 
植物の分布とは独立に地形を評価した結果、この集水域の地形構造は上記のニッチ軸と同様の2軸で説明できることがわかった。山体の削剥過程でどちらも生じ得るが、第1軸の傾度が卓越することは、東アジア沿岸域の活発な地殻変動と多雨気候による河谷浸食の速さに起因すると考えられる。この状況が成立したのは植物の進化史においては比較的最近である。古典的な資源傾度上での保守的なニッチ選択に加え、新しく生じた環境傾度軸上でのニッチ選択が可能となり、不安定な地表への適応と関連する形質が様々な分類群で派生的に進化したことが、複雑で多様な地形-植生構造の形成要因と推察される。大規模なデータでの検証が望まれる。


日本生態学会