| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-01  (Oral presentation)

128倍体と化した菌細胞:アブラムシ-ブフネラ細胞内共生と倍数化 【B】
Endopolyploidy in aphid-Buchnera symbiosis 【B】

*野崎友成, 重信秀治(基礎生物学研究所)
*Tomonari NOZAKI, Shuji SHIGENOBU(NIBB)

高度に倍数化した細胞の存在は、細菌から昆虫まで幅広い分類群の生物で観察される。そのような細胞は巨大であるとともに、高い代謝活性を示すことが多い。アブラムシを含む多くの昆虫は特定の微生物と絶対的な共生関係を結び、体内の特殊な器官にこれらの微生物を収納している。微生物を保持する器官は巨大な細胞(共生細胞)から構成されており、また特異的な遺伝子群が高発現していることから、高度な倍数化が予想される。またアブラムシの共生細菌ブフネラが1細胞あたりゲノムを約100コピーもつという報告もあり、倍数化が細胞内共生の維持・制御に重要な意味を持つ可能性がある。本研究では、エンドウヒゲナガアブラムシの共生細胞の倍数性を特定し、その倍数化パターンを明らかにした。Feulgen densitometryによって、繁殖に特化した形態である胎生メス成虫の共生細胞は主に128倍体細胞から構成されており、共生細胞の間隙を埋める鞘細胞も約32倍体の細胞であることがわかった。また胎生メスの共生細胞は若齢幼虫では16-32倍体であったのに対し、卵巣内で胚子の成長が盛んになる老齢幼虫の段階ですでに128倍体に到達していた。一方で、野外条件では秋に出現する卵生メスおよびオスを実験室内で誘導し、共生細胞の倍数性を調べたところ、成虫の共生細胞は両者とも主に64倍体から構成されており、胎生メスよりも倍数化度合いが低かった。これらの倍数化パターンから、共生細胞における高度な倍数化と胎生単為生殖による爆発的な増殖力との関連が示唆された。本発表では、ブフネラ側の倍数化や共生細胞の遺伝子発現の情報も併せ、昆虫の細胞内共生系において倍数化がもつ普遍的な意義についても議論する。


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