| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-09  (Oral presentation)

タマノカンアオイの葉の光合成系の季節変化の解析
Ecophysiological analysis of phenological changes in leaf photosynthesis in Asarum tamaense

和田尚樹(東京薬科大学), 近藤壱星(東京薬科大学), 中田大暁(東京薬科大学), 岸本純子(北海道大学), 田中亮一(北海道大学), *野口航(東京薬科大学)
Naoki WADA(Tokyo Univ. Pharm.Life Sci.), Issei KONDO(Tokyo Univ. Pharm.Life Sci.), Hiroaki NAKADA(Tokyo Univ. Pharm.Life Sci.), Junko KISHIMOTO(Hokkaido Univ.), Ryoichi TANAKA(Hokkaido Univ.), *Ko NOGUCHI(Tokyo Univ. Pharm.Life Sci.)

 多摩丘陵の落葉樹林の林床に自生する常緑多年生草本タマノカンアオイは、少ない枚数の葉を春に展開させ、1年間利用している。そのため大きく変動する温度・光環境下で、葉の光合成系が維持されている重要性が高い。本研究では、(1) 高温で光強度の弱い夏期から低温で光強度が強い冬期まで、1年を通して有利ではない環境下で、葉の光合成がどのように季節変化するか、(2)タマノカンアオイの葉はCO2吸収速度が低く、過剰な光エネルギーを受けやすい。取り替えられない葉をどのように保護しているかを明らかにすることを目的とした。
 鉢植えした個体を落葉樹の林床に置き、定期的に栽培環境とともに葉のガス交換・電子伝達パラメータの季節変化を測定し、葉の一部をサンプリングした。飽和光下のCO2吸収速度、Rubisco活性の指標であるA-Ciカーブの初期勾配、電子伝達活性の指標であるA-Ciカーブの最大値、光合成電子伝達速度はどれも夏は低く、秋・冬に増加した。一方、光合成系タンパク質は光合成速度ほど明確な季節変化は見られなかった。光合成速度が夏から秋・冬に増加するとき、光合成タンパク質は量の変化とともに活性の変化も重要かもしれない。
 過剰な光エネルギーの熱散逸を示すパラメータNPQが夏から秋・冬に増加した。NPQの増加には、光化学系IIのPsbSタンパク質やキサントフィルサイクルの色素が関与する。夏から秋・冬にPsbS量が増加するとともに、アンテラキサンチンやゼアキサンチンの量が増加した。また冬には熱散逸に関与するβカロテンやルテインの量も増加した一方、夏に蓄積していた光捕集に関与するαカロテンやビオラキサンチン量は低下した。タマノカンアオイの葉では、生育場所の光や温度環境の変化とともに光合成系の色素組成が大きく変化し、光合成系が維持されていると考えられる。


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