| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) L02-07  (Oral presentation)

繁殖寄生と関連した産卵管長の多様化におけるトランスクリプトーム基盤
Transcriptomic basis for functional diversification of ovipositor length in relation to reproductive parasitism

林寿樹(福井県立大学), 三品達平(理研BDR), 北村淳一(三重県総合博物館), *小北智之(福井県立大学)
Toshiki HAYASHI(Fukui Prefectural University), Tappei MISHINA(RIKEN Center for BDR), Jyun-ichi KITAMURA(Mie Prefectural Museum), *Tomoyuki KOKITA(Fukui Prefectural University)

 動物の繁殖寄生はさまざまな分類群に広く存在する生態現象であるが,宿主利用と関連して,祖先・近縁系統には認められない新奇的な形質を獲得した系統は,新奇的な形質自体をさらに適応進化させることにより繁殖ニッチを分化させ多様化してきたと想定できる.例えば,コイ科魚類の一系統であるタナゴ亜科魚類は,生きた淡水性二枚貝類の鰓内に産卵し,このような繁殖寄生と関連して,産卵管という魚類では特異的な雌繁殖形質を進化させたことが知られている.さらに,本亜科魚類の産卵管の長さは種間や種内集団間で顕著に多様化しており,これは産卵母貝種の分化と関連した適応進化の産物であるとされている.それでは,このような繁殖ニッチ分化の背後にある形質の適応的多様化はいったいどのようなメカニズムによって達成されたのだろうか?
 今回,本亜科魚類の中でも亜種間に宿主利用と関連した産卵管長の顕著な変異が認められるタビラ類をモデル系として,そのような変異を生み出す進化遺伝機構の一旦にアプローチした.タビラ類1亜種(アカヒレタビラ)で新規に解読した全ゲノム情報を基盤とし,亜種間の比較RNA-seq解析を実施したところ,細胞外マトリクス,特にコラーゲンホメオスタシスに関連する遺伝子群の発現変動がこのような現象に関わっていることが初めて確認された.本発表では,このような産卵管伸長及びその亜種間変異の背後にあるトランスクリプトーム基盤について紹介する.


日本生態学会