| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-014  (Poster presentation)

ヌタ場を中心としたニホンイノシシの集団構造
Population structure of Japanese wild boar focusing on wallowing sites

*山田恵佑(東京農大.野生動物), 大川智也(東京農大.野生動物), 米澤隆弘(東京農大.動物遺伝), 松林尚志(東京農大.野生動物)
*Keisuke YAMADA(TUA, Wildlife), Tomoya OKAWA(TUA, Wildlife), Takahiro YONEZAWA(TUA,Animal Genetics), Hisashi MATSUBAYASHI(TUA, Wildlife)

 野生動物が利用する水場として、「ヌタ場」と呼ばれる小規模な湧水地がある。ヌタ場はイノシシ等の偶蹄類が、寄生虫防除、体温調節、感染症予防のために泥浴び(以後、ヌタ浴び)をする場である(Fernández-Llario 2005)。佐野ほか(2019)による自動撮影カメラによる調査では、イノシシのヌタ浴びは他の行動に比べ撮影頻度が有意に高く(P<0.01)、通年で確認されたことから、ヌタ場はイノシシの生活において重要な環境であると考えられた。しかし、カメラによる調査では個体識別が困難であり、ヌタ場における遺伝的集団構造や利用個体数は不明である。
 そこで本研究では、遺伝子解析を用いてヌタ場を中心としたイノシシの集団構造と利用個体数を明らかにすることを目的とした。今回の発表ではmtDNA D-loop領域の解析結果について報告する。
 調査地は神奈川県丹沢地域のヌタ場10ヶ所(東丹沢5ヶ所、西丹沢5ヶ所)とし、月に1回サンプリングを行った。サンプルはイノシシの擦りつけ跡のある木に残った体毛を使用した。体毛1本からDNAを抽出し、mtDNAのD-loop領域(約570bp)をPCRによって増幅し、塩基配列を決定した。
 現在、14サンプルの塩基配列決定に成功し、検出されたハプロタイプは1つであり、Watanobe et al.(2003)により定義されたハプロタイプJ8と一致した。解析した7ヶ所のヌタ場全てで同一のハプロタイプが検出されたことから、丹沢地域では1つの母集団が同じヌタ場を利用していることが示唆された。また、神奈川(2018)による捕獲個体のDNA解析では、本研究の調査地周辺で検出されたハプロタイプはJ8のみであり、本研究と同様の結果であったことから、丹沢地域の集団はmtDNAの多様性が低いことが考えられた。今後は、サンプル数を増やし10ヶ所全てのヌタ場を比較してさらに検証し、mtDNAに加えて核DNAのマイクロサテライト遺伝子を解析することで詳細な集団構造を把握し、サンプルの個体識別を行うことでヌタ場ごとの利用個体数を推定する予定である。


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