| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-019  (Poster presentation)

温暖化に伴う水温上昇がアユの生活史特性の地理的変異に及ぼす作用機序の検証
Testing the effect of global warming on geographic variation in life history traits of an amphidromous fish

*村瀬偉紀(長崎大学), 入江貴博(東京大学), 井口恵一朗(長崎大学)
*Iki MURASE(Nagasaki University), Takahiro IRIE(University of Tokyo), Kei'ichiro IGUCHI(Nagasaki University)

海水温は、緯度や海域に応じて地理的に変異することに加えて、近年、温暖化に伴って急速に上昇している。そこで本研究では、水温の時空間的変異に対する水生生物の可塑的な応答が、緯度や海域によってどのように異なるか明らかにすることを目的とした。日本のほぼ全域に分布し、仔稚魚期を海で過ごす両側回遊魚アユPlecoglossus altivelis altivelisを対象として、(1)成長様式は緯度や海域によってどのように異なり、(2)(1)で得られた傾向が一定期間を経てどのように変化したか、について明らかにした。2001年と2019年に日本全域の太平洋側(POS)と日本海側(SJS)の個体群から採集され個体(約10個体/河川)について解析した(2001年: 23河川、n=231、2019年: 25河川、n=247)。魚類の耳石(炭酸カルシウムの結晶)からは、日齢や成長速度、河川遡上時期などの情報を得ることができる。そこで、河川遡上のタイミングを基準として、海洋生活期間中の成長速度(mm/day)、成長期間(day)、遡上時の標準体長(SL: mm)および耳石の成長曲線を求めた。その結果、SJS、POSともに、水温勾配の影響を受けて、成長速度は高緯度ほど低く、成長期間は高緯度ほど長くなった。SLは、成長速度と成長期間の傾きの影響を受けて、海域間で緯度勾配の傾向が逆転した。また、耳石の成長曲線からは、両海域ともに、高緯度の個体群ほど冬季に成長が停滞することが明らかとなり、この理由として、冬季の低水温の影響が考えられた。年級群間で比較すると、SJSでは全緯度個体群、POSでは、中・低緯度の個体群で、2001年級群と比べて、2019年級群の成長速度は速く、成長期間は短くなった。POS高緯度の個体群は、寒流の親潮の影響を受けて、成長速度が低く、成長期間が長くなった。以上より、(1)アユの成長様式は水温の影響を受けて両海域ともに緯度勾配を示し、(2)海水温の上昇は、SJSでは全緯度個体群、POSでは、中・低緯度の個体群に影響を及ぼすことが明らかとなった。


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