| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-026  (Poster presentation)

地下水がもたらす山地渓流の環境異質性と冷水性魚類の遺伝構造 【B】
Genetic structure of stream cold-water fish across different environments created by groundwater discharge 【B】

*中島颯大(北大院・農), 陶山佳久(東北大院・農), 中村太士(北大院・農)
*Souta NAKAJIMA(Hokkaido Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Futoshi NAKAMURA(Hokkaido Univ.)

地下水は滞留時間が長く流量・水温が安定しているため、地下水流出量の多い湧水河川では夏季水温上昇が抑制される。冷水域を好み水域のみを生息地とする冷水性魚類にとって、湧水河川は気候変動下でますます重要な生息地となっていくと考えられる。湧水河川と非湧水河川では水文環境が大きく異なるため、両者の支流が入り混じる流域内では環境に応じた遺伝的集団構造を形成している可能性があり、これは進化や保全を考えるうえでも重要な情報となる。本研究では、河川への地下水流出量を大きく左右する流域地質に着目したハナカジカの集団遺伝学的研究を通して、地下水がもたらす河川の環境異質性が冷水性魚類の集団構造や分散様式に与える影響を明らかにすることを目的とした。
石狩川水系空知川上流域において、流域地質の割合が様々な20地点から採取した531個体のハナカジカ組織からDNAを抽出し、MIG-seq法(Suyama & Matsuki, 2015)を用いたゲノムワイドSNP解析を行った。また、調査河川において水温ロガーを設置し夏季3週間の水温を記録した。調査地において、地点間の河川に沿った距離と水温の差と間に相関はみられなかった。
集団間の遺伝的分化は距離による隔離が主であり、ハナカジカの分布を規定する要因である水温に応じた遺伝的分化はみられなかった。STRUCTURE解析の結果、流域内で明確な遺伝構造が見られ、支流の上流には特有の遺伝的組成をもつ集団もみられた。推定されたクラスター間で数世代の遺伝子流動を推定したところ、低水温な湧水河川を中心としたクラスターから他の隣接するクラスターへの一方向的な遺伝子流動が検出された。ハナカジカは上流域に固有な遺伝資源が残存していると同時に、湧水河川からの遺伝子流動を介した支流間のつながりにより流域の多様性が維持されている可能性が示された。


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