| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-032  (Poster presentation)

農薬曝露が水田生物群集内の捕食‐被食関係に及ぼす影響
Effects of pesticides exposure on the predator-prey interactions in paddy communities

*江口優志(近畿大学大学院), 橋本洸哉(近畿大学), 角谷拓(国立環境研究所), 早坂大亮(近畿大学)
*Yuji EGUCHI(Kindai Univ. Graduate School), Koya HASHIMOTO(Kindai Univ.), Taku KADOYA(NIES Japan), Daisuke HAYASAKA(Kindai Univ.)

 農薬は,病害虫や雑草の防除を目的に使用され,現在の農業生産に必要不可欠である.その一方で,非標的生物への負の影響が顕在化しており,生態系への影響が危惧されている.このような農薬のリスクを明らかにし,実環境中での影響を予測するために,世界中でさまざまな系統の剤が評価されてきた.これまで,農薬の生物影響は標準試験生物種を対象とした種ごと・個体ごとの室内毒性試験で評価されてきた.他方で,野外において生物は多種からなる群集を形成しており,捕食‐被食関係や競争などを介して種間で網目状に相互作用している.群集が持つこの性質から,農薬の影響による特定の種の減少は,相互作用網で結ばれた他種へも連鎖的に伝わる可能性が示唆されている.さらに,農薬が群集の相互作用網そのものに対しても何らかの影響をもたらす可能性を指摘する研究もある.つまり,相互作用網の変化は,農薬による影響を群集全体へとさらに波及させるメカニズムとなりうる.しかし,農薬曝露による相互作用網への影響の実態について明らかにした研究は極めて乏しい.
 そこで本研究では,農薬の曝露が水田生物の相互作用網に及ぼす影響について,水田生物群集の捕食‐被食関係の変化を軸に議論を試みた.目的達成に際し,安定同位体分析を用いるとともに,殺虫剤と除草剤それぞれの有無による計4処理の水田メソコスム試験を実施した.各生物の農薬処理による同位体比の変動パターンについて,栄養段階ごとに比較した結果,エンドメンバーと中間消費者にはいずれの処理においても炭素同位体比がおおむね上昇する傾向があった.一方で,捕食者であるトンボ目幼虫の炭素同位体比の変動パターンは種ごと,処理ごとに異なっていた.これらの結果は農薬曝露によって水田生物群集の捕食‐被食関係が変化したことを示すものであり,実態に即した農薬の影響評価をする上で,安定同位体比分析の有効性を示唆するものである.


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