| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-051  (Poster presentation)

東大雪における標高の変化による有剣ハチ類の種多様性、機能形質、系統構造の変化
Changes of species diversity, functional traits and taxonomic composition of Aculeata with altitude in East Taisetsu.

*上森教慈, 菱拓雄(九州大学大学院)
*Kazushige UEMORI, Takuo HISHI(Kyushu Univ.)

有剣ハチは送粉,食物網の制御など生態系において重要な役割を果たしている.これらの機能は気候変動によって損なわれる可能性があるが、環境と有剣ハチ群集との関係はよくわかっていない.標高勾配は気候変動のモデルとして使われており,演者らが宮崎県で行った研究では,標高の増加とともに有剣ハチ群集の種多様性が増加する結果が示された.これは,環境条件より地理条件が強く群集形成にはたらいていたものと考えられる.本発表では,北海道東大雪地域での群集解析の結果を示す.調査地は宮崎県より寒冷であり,有剣ハチ類に十分な環境ストレスを与えると考えられる.一方で,多様な地理的背景を持つため,地理条件が強く群集形成に働いている可能性もある.
東大雪地域に位置する九州大学農学部附属北海道演習林および十勝東部森林管理署管区内のクマネシリ岳周辺地域の標高の異なる14地点(223m ~ 1581m)で,イエローパントラップを用いたサンプルの収集を6月中旬,8月上旬,8月下旬の3回行った.種多様性,種数,個体数,標高の増加に反応すると予想される5つの機能形質(体サイズ,栄養段階,食性ギルド,活動期間,生息標高範囲)の多様性および群集加重平均,系統的多様性,分布域の多様性および群集加重平均を求め,標高勾配に沿って線形回帰した.
種多様性および種数は標高の増加に伴い減少した.機能形質および系統構造の多様性や群集加重平均は,分布域指標のFDが標高の増加に伴って減少したことを除けば,標高との有意な関係はなかった.結果から,本研究地の有剣ハチ群集は環境ストレスを受けていると推測されるが,具体的なメカニズムは解明できなかった.
年平均気温を用いて宮崎県と北海道の結果を結合すると,種多様性は8.5°C付近をピークとする一山形の分布をとった.植物では環境傾度に沿って一山形の分布をとるメカニズムが知られているが,これは有剣ハチ群集にも当てはまる可能性が示唆された.


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