| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-053  (Poster presentation)

亜高山帯から高山帯への資源移動と高山性鳥類の餌生物
Alpine birds forage arthropod fallout to alpine from subalpine

*飯島大智, 村上正志(千葉大・院・理)
*Daichi IIJIMA, Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生態系は独立に成立するのではなく、資源の移動を通し隣接する生態系と密接につながっている。生態系をまたいで移動する資源は受け手の生態系に生息する消費者の餌資源を補償する。高山帯は一次生産が少なく、消費者は乏しい餌資源環境の下で生活する事を強いられており、実際に高山帯で繁殖する鳥類の巣内雛は頻繁に餓死する事が報告されている。高山帯では、鳥類が残雪上に落下した昆虫を採食することが観察される。残雪上の昆虫の多くは高山帯よりも低標高で発生し、飛翔や風により高山帯に輸送されたと考えられている。しかし、残雪上に落下する昆虫の供給源は不明であり、さらに高山性鳥類の餌資源としての亜高山帯から輸送された昆虫の重要度を確かめた研究は見あたらない。そこで、長野県乗鞍岳(標高3026m)において、2019年5月下旬から8月上旬にかけ半月毎に高山帯の残雪上と亜高山帯で昆虫を採集し、昆虫の季節消長を比較した。また、高山帯で鳥類の採食場所を記録し、さらに糞を採集し糞中の残存物を調べた。糞の落とし主は、目視と塩基配列により種を確認した。その結果、高山帯の残雪上に落下した昆虫の個体数は6月下旬に最大となり、アブラムシ上科が優占した。アブラムシを形態で分類し、優占的な形態種について高山帯の残雪上と亜高山帯の林内で季節消長を比較したところ、両者は同調していた。残雪上で優占したアブラムシの1種Euceraphis ontakensisは、高山帯には分布せず亜高山帯で優占するダケカンバをホストとする種だった。鳥類は高山帯の残雪上で7月上旬まで採食した。糞中の残存物は、6月まではアブラムシだと考えられる組織片が目立ったが、7月以降は甲虫目やハチ目の組織片が優占した。以上の結果は、亜高山帯で発生した昆虫が飛翔や風により輸送され、高山帯の残雪上に落下し、鳥類の繁殖期である初夏に重要な餌資源になっている事を強く示唆している。


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