| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-084  (Poster presentation)

ムラサキツバメ幼虫における発音の意義
Significance of larval sounds in Narathura bazalus

*上神梓, 望岡佑佳里, 徳田誠(佐賀大学)
*Azusa UEGAMI, Yukari MOCHIOKA, Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

昆虫のコミュニケーションにおいて、音や振動は重要な役割を持っている。ムラサキツバメNarathula bazalus幼虫はアリ随伴性であり、蜜を分泌してアリに提供し、天敵から身を守ってもらう。これまでの発表者らの研究により、本種のメス成虫は、幼虫の摂食場所である新芽から離れた古葉などに多く産卵すること、まれに新葉に産まれた卵は同種幼虫により周囲の葉を切り取られて落下すること、幼虫は単発音と連続音の2種類の音を発することなどが判明している。本研究では、ムラサキツバメ幼虫における発音の意義を明らかにするため室内実験を実施した。アリ(トビイロケアリ)随伴および非随伴条件下での音の発生頻度を確認した結果、連続音はアリ存在下で多く発せられたのに対し、単発音はアリの有無に関わらず確認された。アリに対する音声再生試験では、随伴経験の有無や音の種類に関係なく、アリは音のある方に向かった。新葉にムラサキツバメの5齢幼虫が存在する状態で、下方から1齢幼虫を登らせた結果、対照区(5齢幼虫不在)では多くの幼虫が新葉に到達したのに対し、5齢幼虫がいると新葉に登らなかった。また、コンクリートマイクで新葉から5齢幼虫の音声を再生した場合にも、1齢幼虫は葉に登らなかった。以上より、幼虫が発する連続音はアリとの交信に利用されていること、および、トビイロケアリは何らかの音声が発せられている場所に向かう性質があることが示唆された。また、ムラサキツバメの幼虫は、葉から発せられる音声を認識してその場所を避けることが判明した。予備的な行動観察の結果から、老齢幼虫と若齢幼虫を同じ新芽に配置すると、両者の間で干渉が生じ、前者が後者を追い払うような行動が見られることから、単発音には、いわゆる先住者によるなわばりを示すシグナルのような機能があり、新芽をめぐる幼虫同士の無用な資源競争を避ける上で意義がある可能性が考えられた。


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