| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-088  (Poster presentation)

魚は顔のどこをみている?顔注視行動を引き起こす要素の探求
What is a key element to focus on the face for cichlid fish?

*川坂健人(大阪市立大学), 堀田崇(京都大学), 幸田正典(大阪市立大学)
*Kento KAWASAKA(Osaka City Univ.), Takashi HOTTA(Kyoto Univ.), Masanori KOHDA(Osaka City Univ.)

ヒトや一部の霊長類は、同種他個体と遭遇したとき相手の眼を見ることが知られている。それどころか、単純な円を2つ並べただけの模様すら、何かに見つめられていると感じたり、無意識的に見つめ返したりする。これらの習性は他個体の表情や個体性などの情報が集まる顔を環境中から効率的に検出することに役立つとされている。ゆえにこのような習性はヒトや霊長類のような高い社会性を持つ動物で進化したとされてきたが、哺乳類や鳥類、爬虫類からも同様の報告がなされており、脊椎動物に広くみられる習性と考えられている。ところが、魚類が眼に対してどのような反応を示すかという研究では、主に生得的な捕食者回避や目玉模様による攻撃回避や威嚇といった捕食‐被食関係に焦点が当てられていたこともあり、同種他個体の眼を見ているかに関する知見はない。その一方、魚類の顔を介したコミュニケーションに関する知見はここ10年間で増加している。とりわけ、アフリカ産カワスズメカ科魚類の一種(Neolamprologus pulcher)では、個体識別の情報が顔に集中していること、攻撃性や順位関係のシグナルが顔に現れること、同種他個体と遭遇すると先ず、そして頻繁に顔を見ることが明らかになっている。顔は本種にとって重要な情報源であるが、では、顔を効率的に検出するために同種他個体の眼を利用しているだろうか?
本研究では、先行研究から同種他個体の顔を注視することが知られているN. pulcherに、眼や輪郭、模様など様々なパーツを組み合わせた顔モデルを提示し、どのような顔モデルに対して顔への注視が起こるのか観察した。すると、眼を含む顔モデルを提示したとき、そうでない場合より顔を見ることが明らかになった。本結果は、顔への注視を引き起こす要素が眼であること、すなわち本種が他の分類群で報告されたように同種他個体の眼を見ていることを示唆するものである。


日本生態学会