| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-099  (Poster presentation)

シリアゲムシの翅振動行動は 同種間コミュニケーションに使用されるか?
Is scorpionfly wing-vibration behavior used for conspecific communication?

*石原凌, 宮竹貴久(岡山大学大学院)
*Ryo ISHIHARA, Takahisa MIYAKAKE(Okayama Univ.)

シリアゲムシ科の昆虫は前翅と後翅の両方を同時に上下させる翅振動行動(wing-flashing behavior) を行う。欧米産のシリアゲムシを使用した研究では、翅振動行動は同じ餌資源を利用する他種のザトウムシ類に対する競合的なシグナルとして作用すると示唆している (Magnier and Montgomery 2017)。しかし、翅振動行動が婚姻贈呈における一連の行動シークエンスの中で、どの場面に生じるのかについては調べられていなかった。そこで本研究では、小動物の死骸を婚姻贈呈に使用するヤマトシリアゲを用いて、婚姻贈呈に関連した求愛行動や雄間闘争の過程で生じる翅振動行動について野外調査を行った。野外観察の結果、婚姻贈呈に使用する餌を確保した雄は、接近してくる雄や雌に対して翅振動行動を行ったが、雄に接近する雌は翅振動行動を示さなかった。また、餌の上で単独で性フェロモンを放出している雄のほとんどにおいて翅振動行動が観察された。性フェロモン放出を行う場合と同種の他個体が接近する場合とで雄が示す翅振動行動の頻度を比較した結果、同種の他個体が接近してきた場合は餌の上で単独でいる場合よりも翅振動行動の頻度が有意に増加した。このことから、ヤマトシリアゲに見られる雄の翅振動行動は、婚姻贈呈において遠距離や近距離の同種の他個体に向けた一種のディスプレイだと考えられた。餌を確保した雄に接近する雄は、他雄に対して翅振動行動を示した。また雄間闘争に勝利した雄は敗北した雄に対して翅振動行動を行ったが、敗北した雄は勝利した雄に対して翅振動行動を示さなかった。雄間闘争に勝利した雄のみが翅振動行動を示し、負けた個体が示さないという結果は、翅振動行動は餌を所有している雄が、自分の周囲に存在する他雄に対する一種の誇示行動なのではないかと考えられた。さらに餌場に来訪する雌へのアピールである可能性もあり、これについてはアピールが適応度に及ぼす効果などについて、さらなる調査が必要と考えられる。


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