| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-127  (Poster presentation)

オオバギの送粉共生:植物と花序で繁殖する2種のカメムシの三者関係 【B】
Pollination of Macaranga tanarius: mutualism among the plant and two hemipteran species breeding on inflorescences 【B】

*鎌田一徹, 木庭啓介, 酒井章子(京都大学)
*Ittetsu KAMATA, Keisuke KOBA, Shoko SAKAI(Kyoto Univ.)

 送粉者が花や花序で繁殖する送粉様式はいろいろな植物で知られているが、その多くは産卵しに訪花した親が送粉を行うものであり、この場合送粉者の繁殖は送粉成功に直接結びつかない。繁殖し数を増やした子世代の送粉者が、自身が育った寄主植物個体の送粉に寄与する例は、これまでイチジクとイチジクコバチの絶対送粉共生系でしか報告されてこなかった。わたしたちは、先行研究から、クロヒメハナカメムシ(以下、クロヒメ)により送粉されるトウダイグサ科のオオバギも、イチジクのように、繁殖させ増やした送粉者によって送粉されていると考えた。本研究ではこれを、オオバギの開花フェノロジー調査と、花序の上のカメムシの個体群動態調査によって検討した。クロヒメを含むヒメハナカメムシ属の昆虫は肉食傾向の強い雑食性であり、近縁種では動物性の餌の摂取が繁殖の効率に強く影響を与えることが報告されている。興味深いことに、オオバギ花序上には、送粉に貢献しないアカヒメチビカスミカメ(以下、アカヒメ)も頻繁に観察された。そこで、クロヒメがアカヒメを捕食しているのではないかと考え、窒素安定同位体比分析をあわせて行った。
 その結果、クロヒメはオオバギの開花前から花序に飛来し、開花期間中に繁殖し数を増やしていること、個体数のピークがオオバギの開花ピークと一致していることが示された。一方、窒素安定同位体比にクロヒメとアカヒメで明確な違いは見られなかった。しかし、雄株上のクロヒメでは、開花が進むにつれて成虫の体重と窒素安定同位体比が増加していた。
 本研究から、オオバギでもイチジクと同様に、送粉者が花序で繁殖し、そこで成長した子が繁殖場所となった植物個体の花粉散布に貢献していることが示唆された。また、クロヒメはオオバギの花序で繁殖を行ううえで、オオバギから提供される花外蜜だけでなく、とくに開花期の後半に、捕食ないしは共食いにより動物性の餌も摂取していることが示唆された。


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