| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-128  (Poster presentation)

植物の適応度に対して複数種の散布者が及ぼす複合的影響: 3種系を用いた実証研究 【B】
Interactive effect of multiple dispersers on plant fitness: empirical study using 3 species biological systems 【B】

*大河龍之介(北海道大学), 内田健太(カリフォルニア大学), 齊藤隆(北海道大学), 野田隆史(北海道大学)
*Ryunosuke OKAWA(Hokkaido Univ.), Kenta UCHIDA(UCLA), Takashi SAITOH(Hokkaido Univ.), Takashi NODA(Hokkaido Univ.)

動物による種子散布において、特定の散布者が植物の適応度に及ぼす影響は、①種子の散布率、②散布された種子の空間分布、③実生の生育環境といった散布特性を通して評価されてきた。しかし、自然界では、通常1種類の植物の散布にも複数種の動物が関与し、これらの動物種間での相互作用が散布過程に影響することが知られている。このような場合、ある散布者の「実際」の種子の散布特性は、従来の方法で評価されたものとは異なるだろう。そこで本研究では、オニグルミ種子のキタリスによる散布特性がアカネズミと共存する場合にどのように変化するか明らかにするために、クルミの散布者であるリスとネズミが両種とも存在(リスネズミ区)、リスが単独で存在(リス単独区)、もしくは両種とも不在(対照区)の場合で、種子の散布特性[①種子の散布率、②散布された種子の空間分布(種子間の空間的集中度と種子と同種の成木との空間的関係性)、③当年生実生の生育環境]の違いを評価した。解析の結果、散布者の組み合わせにより、全ての種子の散布特性は異なっていた。まず、リス単独区ではリスネズミ区に比べ種子の散布率が有意に低く、ほとんどの種子は持ち去られなかった。次に散布された種子の空間分布は、リスネズミ区ではリス単独区、および対照区に比べ、種子間で分散して同種の成木と排他的に生育していた。そして当年生実生は、リス単独区では特定の環境での生育は見受けられなかったが、リスネズミ区では中径木の密度が少ない環境に多く生育していた。以上の結果から、リスとネズミによる種子散布は、クルミの適応度に対して相加的ではなく相乗的な影響を及ぼすこと、つまり、リスによるクルミの適応度に対する貢献はネズミが共存する場合は上昇すること、が示唆された。従って、散布者が植物の適応度に及ぼす影響を正しく評価するためには、散布者間の相互作用を考慮する必要がある。


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