| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PB-158  (Poster presentation)

異なる流速環境下におけるツチガエル幼生の形態学的変異
Intraspecific variation in tadpole shape of the wrinkled frog at different water flow regimes

*岩浪創(首都大学東京)
*Tsukuru IWANAMI(Tokyo Metropolitan University)

 生物は,同種内でも,生息場所ごとに形態,行動,生理的特性に違いが認められることが多い.とくに移動分散能力が小さい生物では,生息地ごとに局所適応が生じやすい.一方,大きな表現型可塑性をもつことによって,様々な環境に対応して生活する生物も知られている.生息地ごとに異なる生活史形質は,前者の場合には遺伝的差異を伴い,後者の場合には遺伝的差異を伴わない.ツチガエル(Glandirana rugosa)は,本州,四国,九州に広く分布する両生類である.その幼生の生息環境は,池沼や河川だけでなく,人工的な水田など多岐にわたる.また,本種は,孵化した年にすべての幼生が変態を完了させず,多くの幼生が越冬後に変態することが知られている.そのため,生息環境ごとに幼生の形態に大きな差異が生じるのではないかと考えられる.本研究では,とくに水流の影響が幼生の形態にどのような差異をもたらすのかを明らかにするために,狭い地理的範囲の中で,池2地点,河川3地点,水田1地点,合わせて6地点で幼生の形態比較を行った.2019年8月から9月にかけて捕獲した幼生の頭胴長,頭幅,頭高,尾幅,尾高,尾部筋肉高を計測した.また各調査地の流速分布を求めた.当然ながら,河川3地点は池2地点と水田1地点に比べ,水流が速く,かつ流速のばらつきが大きくなっていた.そうした河川の個体群では,幼生の尾高,尾幅,尾部筋肉高が止水に生息する個体群より大きくなっていた.つまり,ツチガエルの幼生は流水環境下において,太くて高い尾をもつことによって,遊泳能力を増加させているのではないかと考えられた.このような幼生の形態変化が,遺伝的差異によるものなのか,表現型可塑性によるものなかを今後の操作実験によって解明する必要がある.


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