| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-235  (Poster presentation)

ため池の環境構造・餌資源によるコイ科魚類の形態変化
Morphological changes of cyprinid fish in relation to environmental structure and food resources in irrigation ponds

*野村将一郎(龍谷大・理工), 遊磨正秀(龍谷大・理工, 龍谷大・RCSS), 太田真人(龍谷大・RCSS), 吉村理(龍谷大・理工), 森脇優介(龍谷大・理工), 中村聡美(いなみ野ため池協議会)
*Shoichiro NOMURA(Ryukoku Univ.), Masahide YUMA(Ryukoku Univ., Ryukoku Univ.,RCSS), Masato OTA(Ryukoku Univ.,RCSS), Osamu YOSHIMURA(Ryukoku Univ.), Yusuke MORIWAKI(Ryukoku Univ.), Satomi NAKAMURA(The Museum of Inamino Tameike)

ため池は沢水や湧き水をせき止めた人工的な環境である。このような人間活動のために造られた環境でも、長い年月をかけ様々な生物が移り棲み生態系を築き上げてきた。この生態系は多様性が高く、止水環境を好むモツゴなど小型コイ科魚類の重要な生息環境となっている。しかし、近年ではため池の利用、管理が行われなくなり、特にヒシが多量に繁茂する等の環境変化が生じている。これらの環境変化の中、モツゴは生息域を維持または拡大している。生息環境に対して柔軟に適応をしている種は形態的な適応が見られる。本研究では、ため池の環境構造や餌資源に着目し、モツゴがどのように適応しているかを形態から判断することを目的とした。
滋賀県草津市、兵庫県明石市、高砂市、播磨町に点在するため池計13か所を調査地とし、2019年6~10月に調査を行った。生物採取にはモンドリを用い、各ため池でモツゴを固定し持ち帰り、全長、体長とともに14か所の形態を計測した。それに加え、環境要因(プランクトン量、ベントス個体数、水生植物の現存量)等を計測した。
モツゴの各形態に最も影響を与えている環境要因を検証するため一般化線形モデルを用いた結果、水生植物の現存量と尾鰭長、胸鰭長等の各鰭に有意な正の関係が見られ、水生植物が多くなると各鰭が大きくなることが分かった。これらの形態は方向転換の際に体の安定を保ちブレーキや舵を容易にし、水生植物が茂ることによって生まれる複雑な空間構造の中で餌資源を効率よく摂食するのに役立つと考えられた。また、形態比を用いてクラスター分析を行った結果、滋賀県と兵庫県のため池にグループが分かれ、モツゴの形態に地理的要因やため池の管理形態が関わっていることが示唆された。
これらより、モツゴは各環境に対して柔軟な適応をしていることが示唆され、生息域拡大が可能となった1つの要因と考えられる。


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