| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-261  (Poster presentation)

相利共生の安定性に関する数理モデル
A Mathematical Model for the Stability of Mutualism

*下田舞, 江副日出夫(大阪府立大学大学院)
*Mai SHIMODA, Hideo EZOE(Osaka Pref. Univ.)

相利共生系において、潜在的なパートナーの中から質の高い相手を選り好みして共生するパートナー選択は、一方的に利益を受け取る「裏切り者」による搾取を防ぎ、相利共生を安定化させるメカニズムと考えられてきた。しかし、パートナー選択によって共生者集団中の質の変異が減少する結果、パートナー選択の利益は減少するため、パートナー選択をする個体が減り、相利関係が最終的に破綻する可能性が示唆されている。本研究では、植物―根粒菌相利共生系を念頭に、宿主が相利共生から得られる利益を最大化するよう共生者数を最適化しうると仮定した数理モデルをたてて、系の安定性について調べた。

パートナー選択をする系統(Discriminator)としない系統(Indiscriminator)の宿主と、宿主に対して協力的な系統(Cooperator)と非協力的な系統(Non-cooperator)の共生者からなる相利共生系を考える。各宿主個体は資源Rを持ち、環境中からランダムに共生者をそれぞれvD, vI個体選んで共生を開始する。Discriminator宿主は協力的共生者に対しc、非協力的共生者に対しc(1-α)の資源を与える(0<α<1: 宿主のパートナー選択の強さ)。Indiscriminator宿主は共生者に等しくcの資源を与える。共生者は受け取った資源を用いて繁殖するが、cooperator共生者のみ、受け取った資源の一部cxを使って有用物kcxを生産し、宿主に渡す。宿主の適応度は残った資源量と有用物量(共生者由来の分と環境中から得る分の合計)の積に比例し、宿主は自分の適応度を最大化するように共生相手の個体数を調節すると仮定する。

パートナー選択のコストが大きい、又はパートナー選択が弱いとき、宿主2系統及び共生者2系統は安定に共存できなかった。また、環境中から得る有用物の量が多くても、相利共生系は維持されなかった。したがって、相利共生系が安定に維持されるには、宿主が強いパートナー選択を持つこと、パートナー選択のコストが小さいこと、環境中から得る有用物が多すぎないことが考えられる。


日本生態学会