| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-309  (Poster presentation)

コジイの種子生産と種子食昆虫の加害パターン:京都盆地と綾照葉樹林の比較
Differences annual variability in acorn production and pre-dispersal damage to acorns of C.cuspidata between Kyoto Basin and Aya Evergreenforest.

*大久保朔実(京府大・院・生命環境), 河野円樹(宮崎県綾町), 河野耕三(宮崎県綾町), 田中一成(京府大・生命環境学部), 福濱有喜子(京府大・生命環境学部), 平山貴美子(京府大・院・生命環境)
*Sakumi OOKUBO(Kyoto Prefectural Univ.), Nobuki KAWANO(Aya Town Miyazaki Prefecture), Kozo KAWANO(Aya Town Miyazaki Prefecture), Issei TANAKA(KPU), Yukiko FUKUHAMA(KPU), Kimiko HIRAYAMA(Kyoto Prefectural Univ.)

 コジイは西日本の温帯域に分布するブナ科の常緑樹であり、丘陵地・低山地に広がる照葉樹林の構成種の一つである。西日本の暖温帯域における都市近郊林では、燃料革命による森林の放置や、マツ枯れによって分布が急速に拡大している。ブナ科樹木の種子である堅果は大型で栄養豊富なことから、種子散布前後に様々な捕食者に被食される。なかでも種子食昆虫による加害が、種子生産に大きく影響を及ぼすことが指摘されており、こうした加害の有無が種子生産パターンの変化を通じて、森林動態に影響を及ぼしている可能性がある。そこで本研究では、コジイが急速に分布を拡大する京都盆地(宝ヶ池)と、古くから原生的な照葉樹林を形成している宮崎県綾照葉樹林(綾)で調査を行い、コジイの個体レベルでの種子生産の年変動と、種子食昆虫の加害がそれに与える影響の違いを明らかにすることを目的とした。
 綾においては、宝ヶ池と比べ年間落下量及び成熟健全堅果落下量の変動が大きかった。年間落下量の個体間での同調性を示す相関係数は高く、成熟健全堅果落下量と正の相関が見られた。また、各脱落要因が落下に及ぼす影響を解析すると、年間落下量が多い年には一年生花序及び未熟脱落による落下が、少ない年にはツヤコガ科のガの加害による落下が大きな影響を及ぼしていた。年間落下量と虫害率の間には負の相関が見られ、飽食効果が認められた。一方、年間落下量の前年比と虫害率の間には有意な関係は認められなかった。
 宝ヶ池においては、2019年の年間落下量及び成熟健全堅果落下量はともに少なくなっていたが、2016年から2018年までは一貫して多く、ともに変動が小さかった。各脱落要因が落下に及ぼす影響を解析すると、いずれの年もツヤコガ科のガによる加害の影響は小さく、未熟脱落による落下の影響が大きくなっていた。宝ヶ池では加害昆虫であるツヤコガ科のガの影響が小さく、種子生産が多くなっている可能性が考えられた。


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