| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-435  (Poster presentation)

ポータブル脳波計を用いた、緑環境が与える心理的効用の研究
A study of psychological effects of green environment using portable electroencephalographs

*谷田大輝, 伊勢武史(京都大学大学院)
*Daiki TANIDA, Takeshi ISE(Kyoto University)

都市部の住民は慢性的なストレスに苦しめられており、それによって仕事や日常における生産性も低下している。それを改善する手段として、緑環境(緑葉植物を主とする自然環境)との接触による心理的効用がこれまでに多数研究されてきた。しかしそれらの先行研究の多くは、精神状態の測定に主観アンケートを使うか、もしくは客観的データの出せる生理指標測定を行ったとしても、被験者の姿勢や身動きを著しく制限しなければならなかった。より現実に近い人間の精神状態を評価するには、身体を自由に動かせる状態で、さらに何らかのタスクを行う時の測定が必要である。
そこで本研究では、被験者の自由をほぼ制限しない‟MindWave Mobile"というポータブル脳波計(電極を当てるのは額と耳たぶの2ヵ所のみで、データ蓄積はワイヤレス通信で行う)を用い、言語課題・安静・描画課題の3つを行う際の精神状態を測定した。測定は室内と森林内の2ヵ所で行い、データを場所間で比較して緑環境の心理的効用を評価した。なお言語課題には「特定の平仮名3文字を使わずにエッセイを書く」という課題を使用し、描画課題には「できるだけ多くの図形を何らかの絵に変える」という課題を使用した。
その結果、言語課題においては、森林内では比較的高いリラックス度を保ちながら課題に取り組めていた。安静においては、森林内では集中度が安定せず、リラックス度も低い傾向が見られた。その原因としては、森林には思考の元になる物が多数存在し、それによって考え事が始まってしまったことが考えられる。描画課題においては、森林内ではリラックス度は高かったが、集中度は低いという状態であった。心理学では一般に、注意や思考の集中が起きていると創造性が下がり、逆に注意散漫でリラックスしている状態の方が良いアイデアが浮かぶとされる。つまり、創造性を要する描画課題のようなタスクは、緑環境下で行った方が良い成果を出せる可能性が高い。


日本生態学会