| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PD-491  (Poster presentation)

一斉枯死後のササ回復過程後期におけるブナ稚樹更新状況~林冠とササの状況に着目して
Sapling dynamics of beech (Fagus crenata) in late stage of recovery process of dwarf bamboo (Sasa kurirensis), in relation to canopy condition

*佐々木佳音(秋田県立大学), 佐藤朋華(秋田県立大学), 冨松裕(山形大学), 蒔田明史(秋田県立大学)
*Kana SASAKI(Akita Prefectural Univ.), Tomoka SATO(Akita Prefectural Univ.), Hiroshi TOMIMATSU(Yamagata Univ.), Akifumi MAKITA(Akita Prefectural Univ.)

 ササには百数十年に一度、広域で同調開花し枯死する特徴がある。こうした一斉開花枯死は樹木の更新の好機であると考えられており、ササ枯死後に樹木実生の定着が促進されることは明らかになっているが、その後の長期的な動態についてはよく知られていない。さらに、ササの回復や稚樹定着は林冠状況により異なる。本研究では、枯死後24年が経過しササの回復が進んだブナ林において、林冠状況ごとのブナ稚樹の生存や個体群構造、伸長量等の違いを明らかにし、林冠状況によるブナ更新パターンの違いを議論する。

 調査は1995年に林床のチシマザサが開花枯死した秋田県北部のブナ林で行った。ササ枯死区と生存区を含む1haプロット内に半径2.5mの円形プロットを85か所設置し、総面積1668㎡で自然高50cm以上のブナ稚樹の樹高とササ群落高を測定し、林冠状況(ブナ林冠下、ホオノキ林冠下、ギャップ下)を記録した。  一部のプロットでは開空度測定と芽鱗痕追跡による年枝成長の測定を行った。なお1haプロット内で2008年にブナ稚樹の調査が行われた区域では、それらの実生・稚樹の11年間の生存率も調べた。

 ブナ稚樹密度は生存区で0.03本/㎡、枯死区で0.40本/㎡であり、ササ回復後期においてもササ枯死がブナ稚樹の定着を促進していることが確認された。ギャップではササ群落上にまで成長している個体があった一方、約8割の個体は年平均伸長量5cm以下であり、更新木となるにはササ枯死後の初期競争に勝つ必要があると考えられた。ブナ林冠下ではササより大きい個体は見られず、密度・生存率ともに低く、低樹高の稚樹が多かったが、2割以上の稚樹が年間5cm以上伸長していた。ホオノキ林冠下ではササの上まで成長している個体もあり、密度・生存率ともに高く、伸長量が良好な個体が見られたことから、今後比較的速やかにササの高さに達する可能性がある。このようにブナは林冠ごとに異なるプロセスを経て更新する可能性が示唆された。


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