| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-058  (Poster presentation)

ヘルパーになるのはどの個体?協同繁殖シクリッドの稚魚の分散様式ときょうだい間闘争
Which become a helper? Dispersal pattern and sibling competition of young in a cooperative breeding cichlid.

*佐伯泰河, 佐藤駿, 安房田智司, 幸田正典(大阪市立大学)
*Taiga SAEKI, Shun SATOH, Satoshi AWATA, Masanori KOHDA(Osaka City Univ.)

動物は有限な資源を巡って争う。その競争相手は親子や兄弟姉妹といった血縁者の中にも存在する。特に子育てを行う動物では、生活史初期での最たる競争相手は兄弟姉妹である。兄弟姉妹の資源を巡る「きょうだい間闘争」は、将来の繁殖能力が低下したり、時には死亡してしまうため、当事者(子)の適応度に大きな影響を与えると考えられる。親以外の個体が子育てを手伝う「協同繁殖」と呼ばれる繁殖様式では、通常、親の巣で育った個体がヘルパーとしてその巣に残り、弟妹の子育てを手伝う。これまで我々の研究により、タンガニイカ湖産シクリッドのLepidiolamplorogus sp. “meeli-boulengeri”(以降、メーリー)は協同繁殖種であることが明らかになった。さらに、幼魚が頻繁にきょうだいと闘争を行うことが観察された。協同繁殖種では餌の確保以外に、ヘルパーとして巣に留まることを巡ってきょうだい間で闘争を行うと考えられるが、そのような研究例はない。
 そこで本研究では、協同繁殖魚メーリーにおける幼魚の分散様式ときょうだい間闘争の実態を明らかにするため、野外で個体識別をした幼魚の長期観察を行った。本種は砂地に生息する小さな魚で、窪地状の巣にある巻貝の殻を繁殖場所として利用し、ヘルパー、幼魚は窪地状の巣で主に底生動物を食べて生活する。観察の結果、巣の中でも大きな幼魚ほど巣に長期間留まり、ヘルパーとなった個体が多かった。逆に、小さな幼魚ほど早く巣を出ることが分かった。大きな幼魚は攻撃性が高いことから、本種の幼魚は、ヘルパーとなって安全で餌の豊富な巣に留まるために幼魚間できょうだい間闘争を行っていると考えられる。本発表では巣の資源量(巻貝の数)やきょうだいの数と攻撃性、分散先についてさらに解析し、協同繁殖種特有の分散様式ときょうだい間闘争について考察する。


日本生態学会