| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-059  (Poster presentation)

エゾボラの一方的な配偶行動:飼育条件下ではメスに過度の負担がかかる
One-sided conflict in mating behavior of the whelk Neptunea polycoastata

*和田哲(北海道大学), 芳賀恒介(えりも町)
*Satoshi WADA(Hokkaido Univ.), Kousuke HAGA(Erimo)

エゾボラは、北海道ではマツブとして漁獲されているエゾバイ科の巻貝である。演者らは、本種の人工種苗生産を行うために、親貝を周年にわたって飼育して行動観察をおこなっている。
 人工種苗生産とは漁獲対象となっている生物の親個体を飼育・管理して、その卵や子を得る水産資源の増殖手法である。この手法では、安定した温度条件や良好な餌条件、そして捕食者のいない環境で親個体や卵・子を飼育し、卵の受精率の向上、子の生存率・成長速度の向上、そして親個体の活発な繁殖活動を促す。一方、この手法には欠点もあり、なかでも高密度で飼育することによって性的対立が激化する可能性については、演者らが知る限り、無脊椎動物の人工種苗生産では検討されたことがない。
 本種の人工種苗生産は、飼育環境の改善などにより年々産卵成績が向上しているが、産卵貝が交尾・産卵により疲弊し、翌年以降に死亡しやすいことが懸念されている。実際、一昨年の北海道胆振東部地震による大規模停電では、産卵貝の死亡率が非産卵貝の死亡率よりも有意に高かった。演者らは、飼育環境下における交尾頻度をめぐる性的対立の激化が、その一因ではないかと疑っている。しかし、本種では交尾に関わる雌雄間相互作用が詳細に研究された例はない。そこで本研究では、エゾボラに個体識別用の番号を記した後でこれらを飼育し、雌雄間相互作用と考えられる行動を観察・記録した。本発表では、その結果を報告する。


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