| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-179  (Poster presentation)

異なる光環境下に生育するダイモンジソウ集団間の遺伝構造と光合成特性の分化
Ecological divergence and genetic structure between “light" and “dark" habitat populations of Saxifraga fortunei

*孫田佳奈(京都大学), 後藤栄治(九州大学), 高橋大樹(京都大学), 池田啓(岡山大学), 阪口翔太(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学)
*Kana MAGOTA(Kyoto Univ.), Eiji GOTOH(Kyushu Univ.), Daiki TAKAHASHI(Kyoto Univ.), Hajime IKEDA(Okayama Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.)

 独立栄養生物である植物にとって,光は光合成のエネルギー源である一方で,強力なストレス源でもある。植物は移動能力をもたないため,生存には生育地の光環境(光の強さ)への適応が必須であり,多くの植物は種ごとに生育に最適な光の強さが異なる。しかし中には多様な光環境に生育できる植物も存在し,ユキノシタ科のダイモンジソウ(Saxifraga fortunei)はその一例である。本種は直射日光が差し込む草原,渓流沿いの岩場,また弱い光しか届かない林床など,非常に幅広い光環境の下で生育し,生育地ごとの光環境に適応していることが期待できる。では,同種内においても生育する光環境の違いによって生態的に分化しているのだろうか?また,それに伴って集団間は遺伝的な分化を示すのだろうか?そこで本研究では,生育地の光環境に応じた形態・生理生態特性の分化と,集団遺伝構造を検証することを目的とした。
 材料には,秋田県男鹿市においてわずか数百メートルの距離で分布しながら,生育光環境が著しく異なる集団に由来するダイモンジソウを用いた[日中の最大光合成有効放射量:約1400 µmol/m2/s(草原地:明所型),約50 µmol/m2/s (ブナ林の林床:暗所型)]。自生地より持ち帰った個体を用いてCO2固定量を比較した結果,弱光下では暗所型の方が高い値を示すのに対して,強光下では明所型の方が高い値を示した。葉内構造および光合成色素量等についても,集団間で葉の形質が明瞭に分化することが示された。一方で,マイクロサテライトマーカーを用いた集団遺伝解析の結果,両集団は遺伝的にはほとんど分化しないことが示された。以上の結果より,明所型・暗所型の2集団は集団間の遺伝子流動を維持しながらも,光環境に応じて生態的に分化していることが考えられた。


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