| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-181  (Poster presentation)

奈良県御蓋山ナギ林の25年間の更新動態
Regeneration dynamics over a perid of 25 years of a Podocarp forest at the Mikasayama Hill, Nara, Japan

松澤和史, *名波哲, 伊東明(大阪市立大学・理)
Kazushi MATSUZAWA, *Satoshi NANAMI, Akira ITOH(Osaka City Univ.)

 森林群集の構造と動態に関する調査では、一定のサイズ(例えば胸高幹直径5 cm)を超えた個体が対象となることが多い。また、小さい実生や稚樹については、調査区内に配置された小枠の中で調べられることが一般的であり、連続空間上での調査例は見当たらない。本発表では、奈良県御蓋山ナギ林に設置された40 m x 40 m調査区において、1993年と2019年に行われた木本の全個体センサスの結果を報告する。
 優占種はナギとイヌガシで、2種を合わせて全個体数の80%以上を占めた。胸高幹直径5 cm以上(成木)の集団のサイズ分布は、ナギではrotated sigmoid modelに、イヌガシではnegative exponential modelに当てはまった。一方、実生・稚樹の集団のサイズ分布には、両種ともにrotated sigmoid modelが当てはまり、実生・稚樹の中でもサイズが大きくなると生存率が高くなることが示唆された。25年間でナギの個体数は5707本から2380本に、イヌガシの個体数は1140本から271本に減少した。ボロノイ分割によって各個体の占有面積を計算すると、ナギの成木の生残個体は死亡個体よりも広い面積を占有していた。さらに、ナギの成木の空間分布の集中度は25年間で有意に低下し、これは典型的な自己間引きの効果によるものと考えられた。一方、実生・稚樹においては、両種ともに生残個体の占有面積のほうが狭く、また空間分布の集中度は有意に増加した。これは、個体が集中している場所で生存率が高いことを示しており、自己間引きに起因する変化とは逆であった。これには、付近に高密度で生息するニホンジカの踏圧が関わっている可能性がある。さらに、ナギとイヌガシの分布相関は25年間で排他的な方向に変化し、種間競争の効果であると考えられた。以上より、実生や稚樹の集団の構造や動態は成木のものとは異なること、種内や種間の競争や大型動物の影響などさまざまな要因が関わることが示唆され、さらに研究事例を積み重ねることが必要だと考えられた。


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