| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-202  (Poster presentation)

絶滅危惧種ヤツガタケキンポウゲの生育現況
Present condition of endangered plant species Ranunculus yatsugatakensis Honda et Kumaz. (Ranunculaceae) in Mt. Yatsugatake, central Japan

*尾関雅章(長野県環境保全研究所), 元島清人(森林技術協会), 三村昌史(自然環境研究センター), 大原祐太(自然環境研究センター)
*Masaaki OZEKI(Nagano Env. Cons. Res. Inst.), Kiyoto MOTOJIMA(Japan Forest Technology Assoc.), Masashi MIMURA(Japan Wildlife Research Center), Yuta OHARA(Japan Wildlife Research Center)

ヤツガタケキンポウゲ Ranunculus yatsugatakensis Honda et Kumaz. は、本州中部山岳の八ヶ岳の固有種で、生育地が局限され個体数も少ないことから環境省レッドリスト2019で絶滅危惧IA類(CR)に選定されている。また、本種は、2020年2月に種の保存法の国内希少野生動植物種に指定され、今後、一層の保護が図られることとなっている。しかし、本種の生育地周辺では、現在、ニホンジカによる高山植物の採食圧増加も深刻化している一方、本種の生育現況は十分確認されていない。そこで、本研究では、ヤツガタケキンポウゲの保全に向けた基礎的情報の蓄積のため、自生地での残存個体数、生育立地、ニホンジカによる採食影響の現況を明らかにすることを目的とした。
2019年に行った現地調査の結果、既知の自生地2箇所のうち、1箇所は生育を確認できず、1箇所のみ残存していた。残存個体数調査では、本種が岩隙、岩壁に生育し、これまで調査が及ばず確認されていない個体群が存在する可能性も考えられたことから、UAVを用いて生育地内及び周辺を観察・撮影した。その結果、これまでに報告されていた個体群の約10m上方の岩棚に新たな個体群を確認することができたが、現存開花個体数はその個体群を含めても約100個体と推定された。
ニホンジカの採食影響については、本種の生育地周辺には亜高山高茎草本群落が広く分布していたとされるが、今回の調査時には、草本群落内にニホンジカの食痕、フンが多数確認され、草本群落の群落高及び植被率の低下が著しかった。岩壁下部のヤツガタケキンポウゲの群落中にもニホンジカの踏跡・フンが確認され、本種がニホンジカの採食圧に直面している現況が明らかとなった。ヤツガタケキンポウゲは、湿った岩上や岩隙で確認されたが、一部、草本群落内でも確認されたことから、従来はより広い範囲に生育していたものが、ニホンジカ採食の影響により、現在、岩場周辺に遺存的に残存している可能性も考えられる。


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