| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-232  (Poster presentation)

口永良部島における火砕流跡地の植生回復過程
Vegetation recovery process at pyroclastic flow area in Kuchino-Erabujima Island.

*川西基博(鹿児島大学), 山田耕平(近畿大学), 早坂大亮(近畿大学)
*Motohiro KAWANISHI(Kagoshima Univ.), Kouhei YAMADA(Kindai Univ.), Daisuke HAYASAKA(Kindai Univ.)

口永良部島では活発な火山活動がみられ、島の中央に位置する新岳では2015年5月29日に爆発的な噴火が発生した。この噴火に伴って発生した火砕流は西側の海岸部まで達し、新岳山麓の森林は主に熱風による被害をうけ、多くの個体が枯死した。また、火砕流流下地域の谷部に位置する向江浜地区では噴火後の降雨によって発生した泥流によって集落を含む谷部全体が埋没した。その結果、広範囲に裸地が生じたが、いずれの撹乱地においても現在は植物が侵入・再生を始めている。本研究では、口永良部島西海岸に位置する向江浜地区一帯を調査地とし、2015年の火砕流と泥流による攪乱から4年後(2019年時点)の植生回復状況を報告する。
向江浜地区の火砕流流下地域内には、スギ、クロマツの人工林とセンダンまたはタブノキの二次林が成立していた。熱風被害をうけた人工林では、植栽木のスギ、クロマツはほぼすべて枯死した。センダン優占林分では火砕流後も林冠木が生残しており、現在は高木層の樹冠が再生されている。いずれの林分も林床にシカの不嗜好性植物であるナチシダ、ユノミネシダ、シマイズセンリョウなどが著しく密な林床植生を形成しており、モクタチバナ以外の高木種はほとんど定着していないことから、すみやかな森林の再生は難しいと考えられた。一方、泥流跡地では2015年の噴火後繰り返し土石流が発生しているとみられ、新規に侵入・定着したクロマツ、ユノミネシダ、タマシダ、ヒメイタビ、イタドリ、アカメガシワなどの実生、稚樹が点在する状況であった。部分的に土石流が厚く堆積しなかった地点ではシマイズセンリョウ、モクタチバナ、クロキなどが低木群落を形成していた。火砕流の被害がなかった隣接地の照葉樹林が種子散布源として機能することが期待されたが、今後の植物の定着と植生の発達は継続的な泥流による攪乱とシカによる採食に大きく制限されることが予想される。


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