| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-246  (Poster presentation)

植物防御システムの季節プライミング
Seasonal priming in plant defense systems

本庄三恵, 西尾治幾, 杉阪次郎, *工藤洋(京都大学・生態研)
Mie N. HONJO, Haruki NISHIO, Jiro SUGISAKA, *Hiroshi KUDOH(CER, Kyoto Univ.)

植物は生態系の一次生産者であり、その同化エネルギーを利用しようとする様々な生物の攻撃を受ける。植物はこれら病食害生物に対して種々の防御システムをもつが、その発動は植物の成長に負の効果を与えてしまう。そのため、攻撃の強度にあわせて防御の程度を調節する誘導防御応答が進化している。誘導防御は一般的に食害・病害生物からの攻撃そのものが誘導の刺激となるが、本研究で着目するのが「季節プライミング」である。つまり、季節の到来を予兆する日長・気温条件が刺激となって抵抗性を高める応答である。これまで、植物防御における季節プライミングの存在自体が検証されていない。本研究では、ハクサンハタザオ(アブラナ科)の長期トランスクリプトームデータを用いて季節プライミングを示す防御応答を探索した。まず、植物において昆虫・菌類・バクテリア・ウイルスなどの病食害生物に対する誘導防御が知られるジャスモン酸、みどりの香り、サリチル酸、RNAサイレンシングの4つの防御経路について代表的な遺伝子の季節応答を調べた。その結果、主に昆虫・菌類の攻撃に対する防御機構であるジャスモン酸、みどりの香り経路の遺伝子に明瞭な季節応答がみられた。一方、サリチル酸、RNAサイレンシング経路では、明瞭な季節応答を示す遺伝子が少なかった。そこで、季節プライミングを持つ防御機構の候補として、ジャスモン酸、みどりの香り経路の遺伝子が長期の温度変化に応答するかどうかを実験的に調べた。その結果、みどりの香り経路においていくつかの遺伝子が明瞭な低温抑制を示した。これらの遺伝子を対象に、ヒストンの翻訳後修飾の蓄積の季節変化を調べたところ、H3K27me3がプライミングメカニズムとして有望であることがわかった。以上より、植物の防御応答のうち、少なくともみどりの香り経路が季節プライミング応答を持つ可能性が示唆された。


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