| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-271  (Poster presentation)

ヒメトビウンカ飼育個体群内におけるスピロプラズマのオス殺しに対する抵抗性の進化
Evolution of male-killer suppression in a rearing population of Laodelphax striatellus

*吉田一貴(鹿児島大院・連合農学), 真田幸代(農研機構・九沖農研), 徳田誠(佐賀大・農)
*Kazuki YOSHIDA(United Grad. Kagoshima Univ.), Sachiyo SANADA-MORIMURA(NARO/KARC), Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

 一般に、有性生殖を行う生物個体群において何らかの要因で性比に偏りが生じた場合、1:1に戻ろうとする作用が働くとされる。昆虫にはボルバキアやスピロプラズマといったオス殺しを行う共生細菌が存在し、個体群の性比がメスに偏ることがあるが、宿主における「オス殺し抵抗性」の出現により性比が正常化した例が過去に2例ほど報告されている。
 イネの重要害虫ヒメトビウンカには細胞質不和合を引き起こす共生細菌ボルバキアが感染していることが知られていたが、2000年代半ばに台湾で性比がメスに偏った個体群が発見され、オス殺しを行うスピロプラズマが存在することが確認された。このスピロプラズマによるオス殺しは「晩期型」であり、宿主体内の細菌密度の上昇に伴い老齢幼虫期にオスが死亡する。その後自然個体群内で性比が正常化しているかは確認されていないが、スピロプラズマによる性比偏向 とは関係なく一部地域の個体群が潜在的にオス殺し抵抗性を持つという特異な例が確認されている。
 今回、2007年に採集された岐阜県由来のヒメトビウンカ飼育個体群において、全個体がスピロプラズマに感染しているにも関わらず、正常性比を示していることが発見された。オス殺し感受性の系統を用いた交配実験により、この岐阜の個体群のスピロプラズマはオス殺しの能力を有しているが、宿主の遺伝的要因によってオス殺しが抑制されていることが判明した。過去の調査で岐阜県の個体群は「オス殺し感受性」が多数であったことが確認されていたことから、累代飼育の過程で飼育個体群中にオス殺し抵抗性が浸透していったと予測される。また、オス殺し抵抗性のメカニズムがスピロプラズマの密度抑制によるものであるか確認するために定量PCRを行った。その結果、オス殺しの有無とスピロプラズマ密度は関連がなく、オス殺しの抑制は別のメカニズムで起きていると考えられた。


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