| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-291  (Poster presentation)

氷期後の二次的接触が温帯林の昆虫に与える影響:寒冷地と温暖地の比較
The influence of secondary contact after the last glacial period on arboreal insects in temperate forests: a comparison between cold and warm regions

*木村彰宏(岩手連大), 池田紘士(弘前大学)
*Akihiro KIMURA(UGAS), Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

 更新世における大規模な気候変動は生物の分布や遺伝構造を変化させてきたが、氷期中の逃避地への隔離と氷期後の分布拡大は、特に温帯において地理的隔離による集団間の遺伝分化と氷期後の二次的接触をもたらしてきた。例えば東北地方ではブナが最終氷期に限られた逃避地にのみ生息しており、ブナ林に生息する昆虫の分布も同じように変化してきたと考えられる。東北地方のように比較的寒冷な地域では、比較的温暖な関東・中部地方と比べ氷期と間氷期の繰り返しの影響が大きく、集団間の遺伝分化と氷期後の二次的接触に伴う交雑が生じてきたと考えられる。
 そこで本研究では、ブナ林に生息する昆虫を対象に、氷期に複数の逃避地があったと考えられる東北地方で、氷期中の隔離による遺伝分化と、その後の分布拡大による二次的接触と交雑が生じたことを明らかにする。そのために、ブナ林に生息するコウチュウ目ジョウカイボン科を対象として、mtDNAのCOI領域と核DNAのWg領域を用いた遺伝子解析を行い、東北地方と関東・中部地方に生息する種間で比較した。
 2015年から2019年にかけて、東北地方22地点と関東・中部地方9地点で採集を行い、15種629個体を採集した。そして、COIとWgを用いて遺伝的距離と地理的距離に相関があるかを調べた結果、青森県に生息する種ではCOIの遺伝的距離と地理的距離の間に正の相関がみられた。また、COIを用いて作成した系統樹とWgを用いて作成した系統樹を比較したところ、COIの系統樹では青森県に生息する種のうち一種が単系統を形成せず、別の種と単系統を形成したが、Wgではこのような傾向はみられなかった。このことは、交雑によってmtDNAの遺伝子浸透が起きたことを示している。また、分岐年代推定によって、この2種の分岐が約160万年前であり、更新世の気候変動によって種分化が生じたあと二次的接触が生じたことが示された。


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